いと

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インターホンが鳴る。少しだけ動悸がする。
この動悸は彼女を恐れているからか、申し訳なさか、それともまだ好きだからなのか。よくわからない。
ドアスコープをのぞくと彼女が立っている。

居留守を使おう。

スマホが鳴る、彼女からのDMだ。もう3日も返信していないDMは気づけば未読が40件を超えていた。

「今日のところは帰ってくれないか」

そう送るとすぐに既読がついた。

「もういい」と一言だけ返信がくる。

この瞬間、僕と彼女の関係はだんだんと広がっていったヒビのところから綺麗に割れた。

彼女は僕に依存していた。
友達だった頃はよく笑いながら「メンヘラだから彼氏できないんだ」と話していた。
それを承知で付き合った。しかし応えれば応えるだけ加速していく彼女の要求に疲弊してしまった。

1週間が経ち、彼女に近いうちに話せないかとDMを送った。既読無視された。それ以上はなにも送れなかった。

次の日、大学で彼女の友人にそれとなく彼女のことを聞いてみた。その子曰く、彼女は冷めたらしかった。

あんなに尽くしたのに、こんなにあっさり終わってしまうのか。そんな思いがふつふつと湧き上がる。
と同時に彼女の要求に応えられない僕に存在価値はないのだとも思った。

彼女は絶対に僕から離れていくはずがないという根拠の無い自信だけが僕を守っていたみたいだ。

彼女しか僕を生かしてはくれないのだ。

僕は彼女の部屋のインターホンを押した。
反応はない。

8/28/2024, 3:32:24 PM