仕事が終わり、夕飯の食材を調達しに寄った総合スーパー。通りかかった夏物のコーナーでふと、フリンジの付いたつばの広い麦わら帽子が目に止まった。目が吸い寄せられた、の方が正しいかもしれない。別にどちらでも良いのだけれど。
「名前…なんて言ったかな…」
陽炎に溶け出してしまいそうな程の真っ白い肌に、淡い水色のワンピースが良く似合っていたのを憶えている。
防波堤に寝転んで、麦わら帽子を陽の光にかざしながら
「なんだか木漏れ日みたい」
小学生の私には「木漏れ日」という単語が酷く大人びて聞こえて、同い年なのにそんな言葉を使う彼女が、いつか私を置いていく気がして。バカにしないでよ、なんて。
そんなあまりにも理不尽な苛立ちを覺えたものだから、その細い手から無言で麦わら帽子を取り上げると、彼女は寝転んだまま不思議そうに此方を見つめた。
ますます自分が子供っぽく思えてきて、恥ずかしくて、またもや無言で彼女の顔に帽子を乗せ、走って逃げた。
「まって」
そう言って彼女が私を追いかけるのが嬉しくて、笑みがこぼれる。私を追いかける途中でサンダルを落とした、真夏のシンデレラ。
「まって」
声がした方に目をやると、一人の女の子。
「これ可愛い!」
麦わら帽子を指さして、母親にねだっている。
今日の夕飯は何にしよう。
#麦わら帽子
8/11/2024, 1:16:15 PM