7.やりたいこと 黒大
「黒尾、今日は倒れるまで食うぞ」
突然のことに俺は面食らってしまう。澤村の手に掴まれているチラシを見るに今日近くの河原で納涼祭があるようだ。チラシには、納涼祭らしくかき氷やヨーヨー釣りのイラストが書かれている。ただ、澤村曰く「他にも焼き鳥とかたこ焼きみたいな屋台も沢山あるから」との事。
納涼祭が始まるのが17時のようなので、16時半に家を出ることになった。家を出るまであと2時間ほど、澤村は先程から祭りが待ち遠しそうに部屋をウロウロしている。その姿がなんだか面白くて、何となく体重のことを持ち出してみると割と怖い顔でゴヅムされてしまった。
出発の時間になったので、財布や携帯の確認をして問題ないことを確認し家を出る。歩いていると、同じく納涼祭に参加するのであろう浴衣を着た人達がポツポツと合流してくる。浴衣と言えば澤村は絶対に浴衣が似合うだろうから、来年は必ず浴衣を用意しておこうと誓う。
河原に着くと既に多くの人が来ていた。俺達も早速雑踏の一部となり、屋台の食べ物を堪能しに行く。澤村は次々と屋台をめぐり色んな食べ物を味わっていた。少し目を離していた隙に手に持っているものが変わっていて驚かされたりもした。その間に何度かはぐれそうになったが、俺の背が頭ひとつ抜けて高いおかげで何とか合流できた。その度に澤村に「黒尾の背が高くて助かった」と、とてもいい笑顔で言われた。祭りを堪能できているようで何よりデスヨ。まったく。
祭りも終盤、どうやら打ち上げ花火が上がるようだ。両手にりんご飴や綿菓子、フランクフルト、更には焼き鳥を持っている澤村と近場の高台に移動する。
「祭り、久しぶりだったが楽しかったな」
「そうだな。俺も充分祭りを堪能できた」
「ただ屋台を制覇できなかったのだけは心残りだな。来年はお前も手伝えよ」
ニヤリと笑いながら「お手柔らかにお願いシマス」と短く返す。澤村もまた来年も一緒に来るつもりのようでとても嬉しくなる。ただ、澤村に付き合って倒れるまで食うのはごめんだ。
6/10/2024, 1:00:15 PM