ワスレナグサの語源を知っているだろうか。
ドイツのとある伝説が有力な説らしい。
簡単にまとめると、こうだ。
とある騎士が、恋人のためにこの花を摘もうとして足を滑らせ、川の流れに呑まれて命を落とした。
彼は最期に「僕のことを忘れないで」と恋人に言った。
彼女は、愛する人の言葉を忘れず、生涯この花を髪に飾り続けた。
悲しい終わりを迎えても、その愛は永遠のものであった。
正真正銘本物の愛が、二人の間には存在した。
そんなラブストーリーが、この花の背景にはあったのだ。
____そんなロマンチックで素敵な話に聞こえる。
しかしこの伝説、よく考えると、割と恐ろしい側面もあるのではないだろうか。
私には、まるで彼が最期の言葉で、恋人の愛情が半永久的に自分に向くように仕向けたように思えたのだ。
ワスレナグサの花言葉の一つは「真実の愛」。
この騎士が、死の間際になんとかして恋人に伝えたい、と思った言葉は「自分のことを忘れないで」だった。
だからきっと、騎士が恋人を愛していたのは本当だろう。
そして彼は、恋人の自分への愛を補強した。
自身の死によってそれが失われることの無いように。
私にとって、それは一種の呪いのように思えた。
この騎士もその恋人も、きっと彼の言葉をそうは思わなかっただろうが。
私がこの伝説を通じて恐ろしいと感じたことは、他にもある。
ワスレナグサのもう一つの花言葉は「私を忘れないで」。
この花の日本語名は「勿忘草」。
英語名は「forget-me-not」。
ドイツ語名は「Vergissmeinnicht」。
いずれの言語でも、名称自体が「(私を)忘れないで」という意味を持つのに、花言葉にも同じ意味の言葉がある。
まるで誰かに念を押されているような気がする。
…もしも例の騎士の恋人があの後、騎士のことを忘れて生きていたら、一体どうなってしまっていたのだろうか。
2/2/2023, 5:19:30 PM