シャイロック

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どんなに離れていても

 距離になんか負けない。どんなに離れていても、愛は続くと思っていた。
 大学で知り合った人と手紙のやり取りをしていた。関東と東北、たかだか300kmの距離だったが、あの頃はLINEとかメールなど無くて、手紙のみのやり取り。一通出すと、指折り数えて3日ぐらい経つとソワソワして、結局、郵便局の管轄がうまくいかないのか、返事が届くまで2週間はかかった。その間のドキドキやソワソワは、今思い出すと心臓に悪いレベルだった。そして、返事が届いたらもっと心臓に悪かった。丁寧にハサミで切って開いて、便せんを取り出す時が、だ。
 男性にしては、美しい文字を書く人で、私は丸文字。少し肩身が狭かったが、相手の問いかけに答え、近況を綴る楽しみは、何ものにも代え難い楽しみだった。
 ある日、私は近所の人の勧めでお見合いをすることになった。断っても良いから一度会ってやってくれ、というのですることにした。断るから。と、正直に書いたのだが、それっきりプッツリ返事が来なくなった。季節の変わり目を口実に手紙を書き、何気なく、この間のお見合いは、約束通り断りました。と書いたし、さらに1ヶ月後ぐらいに「どうして返事をくれないのか?首を長くして待っているのに」とも書いてみたが返事は無かった。
 あの頃の私は、会いに行くことも出来ず、ただただ待っていたが、本当にあれっきりだった。
 今思うと、古い土地の人だったので、「見合いイコール結婚」のような、固定観念のある地域だったのか、はたまた私の文面の何かが気に入らなかったのか、とにかく今となっては分からない。確認することもなく、そのままになった。
 遠距離恋愛なんて無理だったんだ。どんなに離れていても愛は続くなんて、思い上がりだったんだ。相手の本当の意志も確認できずに終わった、私の幼い恋だった。
 
No.180

4/27/2025, 6:46:31 AM