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《0からの》


毎日が苦痛でした。

ある日には
「あなたは、私以外と接する人間も少ないでしょうから、この職場でコロナワクチンを打つのは最後でいいわね?他の職員から優先的に接種してもらいますから」

と言われました。

自宅待機させてくれるかと思いきや
毎日出勤しなければなりませんでした。

また、ある日には
痩せた私を見ては、
「その腕、細すぎて血管が浮いてて気持ち悪い」と
言われました。

見せないように、アームカバーを着けていれば
「なにそれ、不潔」とあからさまに嫌な態度をとられました。

こんなことを言われるために
側にいるわけではないのに

心は拒みますが身体は抗うことはできませんでした。

感情も次第になくなり、気持ちの起伏は
少しずつ真綿で絡め取られていきます。


「あなたのことは、大事に思っているから」

疑心しかないのに
どこかでその一言にしがみついていたんだと思います。

どの口がそんなこと言うんだろう?
とこからその言葉が出るんだろう?

気になって仕方ありませんでした。

この日

彼女は
私のそばから立ち去り際に、床の段差に
つまづいて転びました。

倒れた彼女に馬乗りになりました。
そして
どの口がそんなこと言うんだろう?
とこからその言葉が出るんだろう?

口を開けやすいように両手で歯を持ってこじ開けました。
顎を外して、手を入れやすいようにして
右手を突っ込んでさがしました。
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「これが当時の、あなたの調書です。」

「何か、思い出すことはありませんか?」

「些細な事でも気になったら、看護師さんに伝えてください。」
と担当警部補達は帰っていきました。


・・・誰のこと、書いてあるんだろう?
担当警部補さんは
さも私が殺めた口ぶりだ。

このところ、毎日同じ事を質問される。
だけど、何も思い出せない。

《やっと他人になれたんだね。よかったね》
《こんな嫌な奴、0からやり直すこともないもんね》

何度も読まさせるけど、そう思う。

そう思う事を、看護師さんに伝えたほうがいいのかなぁ。

2/22/2023, 5:37:12 AM