先週、妻が先に逝ってしまった。
『終点ー、天の海ー、この電車はもう消えてなくなりますので、お降りくださいー』
私は妻のいない寂しさを紛らわす為に、旅に出た。特に当てはないが、時間潰しにはなるだろう。
「おっと、着いたか。ここは……?」
うたた寝をしていた間に、終点まで来てしまったようだ。
私は立ち上がって窓の外の景色を見た時、思わず感嘆の声を漏らした。
雲が一面に敷かれた海の上空に、無数の星空がいっぱいに広がっていたのだ。私は生まれて八十年で初めて見るこの景色に、目を奪われた。
『お客さん、早く降りてくださいよー!』
私の時間を邪魔するように、車掌は言った。私は言う通りに電車を降りると、その電車は浜辺の砂のようにきらきらと散って消えた。
周りには誰もいない。
私は取り敢えず、改札に向かって歩いた。
「ご乗車ありがとうございましたー」
改札口に到着すると、近くで駅員の帽子を被った人型のカエルが声を出した。
私はもうボケてしまったのかなと思って目を擦ったが、それは確かにカエルだった。
「ええと、ここは何処なんでしょうか?」
「それは貴方が一番よく知っているでしょう?ほら、お先にお客さんが待っているんで早く行ってあげてください」
カエルが指差す先には、私の愛する妻が立っていた。
「爺さんや。もう来てしまったのかい」
そうか、思い出した。私は妻を追いかけてここまで来たのだ。
「ああ、ちょっとだけ早く来てしまった。一緒に行こうか」
「もちろんだとも」
二人は手を繋ぎ、共に歩いた。
私たちの旅は、きっとこれからも永く続く。
お題:センチメンタル・ジャーニー
9/15/2025, 11:46:14 AM