フィクション・マン

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『クリスタル』

俺は小学生の頃、河原へ行ってはよく綺麗な石を拾っていた。
白くてつるつるした石や、面白い形をした石、赤色だか紫だか分からない特殊な色をした石、とにかく良いなと思った石を拾うようになった。
父さんは、河原から石を拾ってくるんじゃないと注意してきたがうぜーと思いながらフル無視をかましていた。
不吉だとか、河原の石は霊が住み着きやすいだとか、よく分からないことを言っていたと思う。そんなの信じるのは、オカルトだいすき人間だけで、一般常識人はそんなこと考えてねーよなんて当時は思っていたなw

しかし、俺はあの日をきっかけに、石を拾うのをやめた。

学校の帰り、俺は友達に遊ぼうと誘われたが断った。理由はもちろん、石集めのためだ。
それを友達に伝えると、少しドン引きした顔で辛辣なことを言ってきた。
「えぇ…石なんか拾ったって楽しくねーだろ…。そんなださい事するより俺ん家で一緒にゲームしようぜ」
俺はちょっとだけムッとした顔になって再度断る。
「いやいいよ別に。俺石集めたいから」
頑なに誘う友人と、頑なに断る俺。友人がため息を吐く。
「なにが楽しいんだよそれの」
「いや結構楽しいんだよ。だって、河原には沢山面白い石があるんだよ。星の形をした石とか、綺麗な色をした石とか、無駄にすべすべしてる石とかさ」
「お前やってること〇ーちゃんだからな??」
「言ってろよ、俺は一人で石集めてくっから」
俺がランドセルを背負って行こうとすると、友人も行くと言い出した。
「え?マジで来るの?」
「そんなに楽しいんなら行ってみるわ。楽しくなかったら速攻帰るけど」
「いや…何か物を探したりするのが好きな人なら多分楽しいと思うけど、もしそうじゃなかったらキツイと思う」
「ふーん、一回お前がやってるとこ見てみるわ」
俺達は、二人で近くの河原に行って石を探すことにした。
「ここだよ」
「石まみれだな」
「そりゃあね」
二人で河原まで降りて、石を探し出す。
「んー、なんか条件とかあんのー?」
「別にないよ。これすご!って思ったやつをコレクションにするだけだし」
「へー」
いつもは一人で石集めをしていたが、二人で石集めをすれば喋りながらできる(当たり前)のに気付いて、俺達はどーでもいいような会話をしながら色々な石を見ていた。
そうして数十分後、友達がすごい石を見つけてきた。なんか、三日月の形をした石だ。
「おー!すげぇじゃん!」
「これマジで月じゃね?凄くね?」
つまらねーだろと言っていた友達は、これを機に色々な石を探し始めた。
俺も負けてられないと、面白い石を必死になって探す。
すると、何かを隠すかのように、石がその上に沢山置かれているのを見つけた。
その隠している物の上に置いてある沢山の石をどかし、何が埋められているか確認する。
すると、そこにはクリスタルのような、キラキラ虹色に光る鉱石があった。
「!?!?!?!?!?!?!?!?」
俺はびっくりした。人生で初めて、こんなに美しく、めっちゃ高そうな、宝石みたいな見た目の石?を初めて目にしたためである。
凄いものを発見したので、それを友達に見せようとそのクリスタルを触った瞬間、俺の腕の感覚が無くなった。
「えっ」
一切力が入らなくなり、俺の両腕はブランと揺れるだけだった。
「え、な、なにこれ」
俺の腕が、紫色に変色していく。
「や、やばい!!!おい!!太一!!!!」
「んぉ?」
俺は友達の所まで駆け寄った。俺の状態を見た友達はギョッとした顔で驚いていた。
「お、お前なんだそれ!!変なもんでも触った!?」
「じ、実は石を……」
「石?」
すると、友達の目線は後ろの方へと変わっていった。
「え?」
「ん…どうかしたのかよ…?」
突然、友達が叫びはじめた。
「うわぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!、」
友達は恐怖で歪んだ顔になり、尻もちをついていた。その叫び声に驚いてる俺は友達の傍による。
「な、なに!?!?なんで叫ぶんだよ!?!?」
すると、足に変な感覚が走った。まるで、誰かに触られてる感じが…。
なんてことを考える間もなく、誰かが俺の足首を思いっきり掴んできた。
驚いて後ろを振り向くと、細くてボロボロの肌をした、異様に長い腕がクリスタルから伸びていた。
その白い腕が俺の足を思いっきり掴んでいたのだ。
「うわぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
恐怖のあまり、叫ばずにはいられなかった。
やつに掴まれたところから徐々に紫になっていく。それだけじゃない。物凄い力で引っ張られている。
……コイツ、クリスタルの中に引きずり込もうとしてる!!!
俺はそこでギャン泣きしながら友達に助けを求めた。
「助けてー!!!!うわぁぁぁあ!!!!」
どんどんズルズル引っ張られる俺を友達は引っ張ってくれるが、あまりにも力が強すぎるため、俺の体はクリスタルへと近付いていく。
「やべぇ!!アイツの方が強い!!」
クリスタルまでもう少しの距離だ。俺の体はほとんど紫色に変色し、体に力が入らなかった。
「お前も踏ん張れよ!!!」
「力が、力が入んない…!!!」
「くそ!!!」
友達が一か八かで俺を掴んでいる腕を殴ったり蹴ったり、でかい石でぶつけたりした。
しかし、ビクともしない。
「やばいやばいやばい!!!!!」
もうクリスタルは目の前で、俺はもうダメだと思い泣き叫んだ。
「くそぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!」
友達がそのクリスタルを思いっきり持ち上げて大きい石の上に叩きつける。
クリスタルは粉々砕けた。
それと同時に、腕も煙のようにフッと消えた。そして、俺の紫色になっていた肌も元の色に戻り、感覚が元に戻った。
「はぁ…はぁ…」
「…………」
俺が今の出来ごとに呆然としていると、友達が粉々になったクリスタルの上に砂利を被せる。
「一生出てくんじゃねーよ!!!くそが!!」
そう言って砂利を被せた後にでかくて重そうな石をその上に置いた。
俺は友達の近くに行って、今の出来事について話す。
「な…なんなんだよ今の……」
「お化けだろ…石なんてろくでもねぇよやっぱ……」
そう言うと、ポケットに入れた三日月の石を河原にぶん投げた。
「もう帰ろうぜ…まじでここにはいたくない」
そう言って、その日はお互い帰路に着いた。
父さんにその日あった出来事を話すと、父さんはほらな!と言うだけであった。
一応、あそこでなにかあったのかとか、おばけとか昔からいるのかとか聞いてみたが、知らないと言っていた。
しかし、心配性の父さんは俺が集めた石と友達を連れて近所の寺にお祓いをしてもらった。
住職が父さんから石を貰い、これは全て河原に返しておくとだけ言っていた。
帰る間際、住職が言っていた。
「変なもんには、触るな」

そりゃ、そーだ。

7/2/2025, 11:55:30 AM