もんぷ

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君を探して

 中学校に上がる前の年の夏、受験勉強の息抜きにと父と母が隣町の市役所の近くで行われるイベントに連れて行ってくれた。フリーマーケット、地域の物産展などでそこそこ賑わっていたがどうしても楽しむ気になれなくて出店から外れた場所にあるベンチに腰掛けて単語帳を読んでいた。すると、ちょうどそのベンチの近くの小さいステージみたいなので催しが始まった。なんてことのない、ゆるい町内の出し物。よく知らない民謡だとか、伝統楽器の演奏、町内会の漫才など。ステージ前のベンチはおおよそ身内で固められているのか一つのイベントが終わるごとに人の入れ替えが激しかった。たまに舞台に目をやってはまた単語帳に目を移す。ぶつぶつと一人で単語を暗誦している最中、ママさんクラブのハンドベル演奏が終わり、若い男の子が1人つかつかと出て来た。私と同い年ぐらいに見えるが中学校らしい制服を着ているので年上らしい。その人がステージの中央に立つと音楽が流れ始めた。知らない曲だがさっきまでの音楽とは打って変わって最近の曲っぽいなと感じた。そして、その音楽に合わせて彼は踊りだした。ブレイクダンスのようなアクションがすごい訳ではないが手や足を大きく使ってしなやかに動きをこなす。かなり激しい動きなのに無表情をしているのがアンバランスなのが印象的だった。特別イケメンとかいう訳ではないし、特段背が高い訳でもないし、目を引くような派手な風貌もしていない。ごくごく普通の男子中学生。なのにどうしても目が離せなくなった。その動き一つ一つに心を奪われ、単語帳に戻れなくなってしまった。やがて音楽は止み、その人は深々とお辞儀をして照れたように笑った。さっきの無表情からは想像もつかない柔らかい笑みを浮かべたその人がいつまで経っても頭から離れなかった。それが私の初恋。




「ふーん。そっからその人に会えたの?」
「いや、名前とかわかんなかったんで…」
「残念だね。」
「…ていうか私のことはいいんですよ。先輩の初恋も教えてください。」
「え、やだよ。」
そう言って照れたように柔らかく笑う、君を探していた。

3/14/2025, 12:57:42 PM