せつか

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「人も植物も一緒だよ」
老人はそう言って、冬枯れの庭を見つめた。

私は椅子に座る彼の傍らに膝をつき、窺うようにして見上げる。皺だらけの口元は笑っているようにも、悔やんでいるようにも見えた。
「水をあげすぎて根腐れしてしまう花もあれば、水辺の近くでなければ育たない花もある」
目の前の庭は何年も手入れがされていない。
草は伸び放題で、かつては色とりどりの花がつけていたであろう木々は草に埋もれ、葉を全て落として貧相な姿を晒していた。

「陽の光、土の養分、虫の駆除。どれも植物一つ一つで対応が違ってくる。間違った育て方をしていては駄目なんだ」
しわがれた声に疲労が滲む。
「私は·····間違えた」
一代で財を成した老人は、多くの子供と愛人に恵まれていた。全盛期にはメディアを賑わせたことも一度や二度では無い。
だが今は·····この広い屋敷にいるのは彼と私だけ。
子供達も、愛人達も、みんないなくなった。

彼が丹精込めた筈の庭は荒れ地に成り果て、広い屋敷も年月のせいで全て色褪せてしまっている。
豪奢な調度品は持ち去られ、不釣り合いな小さな椅子とテーブルだけが残されていた。

「愛情の注ぎ方を間違えた」
子供達のことか、愛人のことか。それとも庭の植物達のことか。言葉だけでは判然としない。
私は彼の膝に乗った手に自分の手を重ねる。
かさついた指。皮膚のたるんだ甲。年月を感じるそれはまるで枯れ枝だ。
「旦那様」
努めて柔らかく呼びかける。
「旦那様には私がいますから。どうかご安心ください」
庭も、彼自身も。最後まで傍にいて見守らなければ。
――彼には私しかいないのだから。

冬枯れの庭を見つめる彼の目は、虚ろで。
かさついた指が私の手に重なる。
「――旦那様?」
ぎゅ、と唐突に強い力で握られた。
「気付いていないと思っていたのか」
しわがれた声。だがその鋭さは往時となんら変わっていない。

――あぁ、私も間違えた。
そう思った。


END


「愛を注いで」

12/13/2024, 3:39:57 PM