『目が覚めると』
「セバスチャンさん大変です!」
セバスチャンが朝食の準備をしていると、
ベッキーが息を切らして厨房に駆け込んできた。
「どうしたベッキー」
「お嬢様の姿がどこにも見当たらないんです!」
「主が……?」
眉をひそめたままセバスチャンは、
悪役令嬢の寝室へと急いだ。
扉をノックするも返事はない。
「主、失礼します」
中へ入ると、朝日に照らされた
静寂な空間が広がるばかり。
散歩にでも出かけたのか、それとも……。
不安が胸をよぎる中、微かな声が響いた。
『セバスチャン、こちらでちゅわ!』
目を凝らすと、
ドレッサーの上に小さな生き物を発見。
頭にリボンをつけたハムスターが、
つぶらな瞳でセバスチャンを見上げている。
「……主ですか」
🐹『でちゅわ!』
くしくしと小さな手で顔を整える
主の姿に、言葉を失うセバスチャン。
「一体、何が起こったのですか……」
🐹『目が覚めるとこの姿になっていまちたの。
きっと魔術師の仕業でちゅわ』
セバスチャンが手のひらを
出すとちょこんと上に乗ってきた。
🐹『さあ、あの者を探しに行きまちゅわよ。
出発進行でちゅわ!』
魔術師の匂いを辿って深い森の中に
足を踏み入れた二人。
お目当ての人物はあっさり見つかった。
どうやらハーブを摘んでいる最中のようだ。
「おや、おはようございます」
🐹『魔術師、今ちゅぐ私を元に戻しなさい!』
「またお前の仕業か」
「またってなんですか。
ご心配なく、これですぐに戻れますよ」
そう言って黄色い花を差し出す魔術師。
この花の名前はルー。
柑橘系の強い香りが特徴的な、
魔法解除の能力を秘めたハーブだ。
花をムシャムシャと食べる悪役令嬢ハムスター。
✨️✨️🌼🐹🌼✨️✨️
口に含んだ瞬間、彼女は光に包まれ、
元の美しい姿に戻った。
「主!」
安堵の表情を浮かべるセバスチャン。
彼女にかけられていた"とっとこハム魔法"。
魔術師が編み出した呪文で、相手を
ハムスターに変えてしまう恐ろしい魔法だ。
「まだまだ試作の段階なんです」
「許可も取らずに私を実験台に使うだなんて
あんまりですわ!」
ぷりぷり怒る悪役令嬢。
「どうかお許しを、お嬢様」
魔術師はローブの下から
氷魔法がかけられた白い箱を取り出した。
「お詫びに特製アイスケーキをご用意しましたから
……お茶と一緒にどうですか」
「あら、あらあら……ふっ、仕方ないですわね。
今回は私の優しさに免じて許してあげましょう」
「それでいいんですか、主」
かくして三人は屋敷に戻り、朝日が森を
金色に染める光景を眺めながら朝食をとった後、
皆でアイスケーキを頂いたのであった。
7/10/2024, 8:00:04 PM