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久々に依頼が入った。行方不明の息子を捜してほしいという依頼だ。
警察に捜索願を出してはいるが、一向に進捗はなく、藁にも縋る思いでここに来たようだった。
「先に言っておきますがね奥さん、私は捜索のプロではなく、あくまで探偵だという事を頭に入れておいていただきたい」
向かいのソファに座る女性に念を押す。自慢じゃないが、今までこなした仕事内容は、せいぜい脱走した猫や犬を捜すくらいのものだった。若しくは浮気調査などのごく一般的な探偵の仕事だ。
「わかっています。それでもお願いしたいのです」
女性はどうやら相当参っているようだった。顔はやつれ、髪の手入れも満足に行き届いていないように見えた。初対面だが、実年齢よりも老けて見えるのではないかと感じた。

「これが息子の写真です」
女性は鞄から取り出した写真をテーブルに置くと、私に向かってスッと滑らせた。
「黒縁眼鏡をかけていて、身長は172cm……あ、前髪はこれよりも長いと思います」
写真に写る少年の前髪は眉よりも少し上の長さだったが、女性が言うには、現在は眼鏡の縁の少し下程の長さまで伸びているらしかった。
懐から手帳を取り出すと、メモを取りながら女性に話を聞く。
「息子さんの行き先に心当たりは?」
散々警察にも聞かれた事だろうが、一応聞いてみる。
「いえ、それが……」女性が言い淀む。
「どうしました?」
「それが、よくわからなくて。私も主人も、仕事のことばかりで、あまりあの子に構ってあげられなかったので……」
言い訳をするように目を逸らし、顔を伏せる女性からは、後悔の念が見てとれた。
しかしすぐに顔を上げると、続けて言った。
「ただ、同じ高校に仲の良い女の子がいたみたいです」
「なるほど。ではその子にも話を聞いてみる価値はありそうですね」
こちらも散々警察に話を聞かれたと思うが。

女性が去った後も、暫くの間は写真の少年を見つめていた。どこかで見た事があるような気がしたからだ。電車などで見かけたのだろうか。この依頼の重要性にはまだ気付いていなかった。

3/2/2025, 10:20:13 AM