チリン、チリン。
聞き慣れた、ベルの音。
開けておいた窓から、少しだけ顔を出すと、
見慣れた顔の少年は自転車に跨ったまま笑って見せた。
「おはよう! 今日は、調子良さそうだね」
私の具合を見抜くようになった少年に、少し驚きながらも頷く。
そんな些細なことで、また一層嬉しそうに笑う、ふしぎな人。
「いつか、一緒に外を歩けたらいいな……」
一緒に、外を? あぁ、そうやって。
またひとつ、こんな私に光を見せる。
「……変なこと言って、ごめんね。もう行くよ」
困らせているのは、私のほうなのに。
そっと手を振り返して、ペダルを漕ぎ出した少年を見送る。
その姿を見つめ続ける私は、未練がましいだろうか。
そう思い、窓を閉めようとした瞬間、声が聞こえた。
「訂正は、しないから!!!」
驚いて外を見た時、少年はもう随分と遠くにいたけれど。
真っ直ぐと聞こえたその声が、頭にはっきりと残っていた。
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「自転車に乗って」 2024. 8. 14
8/14/2024, 11:39:36 AM