ミミッキュ

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"夢を見てたい"

──ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ……
「ん……」
 目覚ましの音に意識が浮上する。のそ、と緩慢な動きで上体を起こして唸りながら伸びをする。視界の端でハナも伸びをしているのが見えた。
──なんか、夢を見た気がする。
 ぼんやりとした声色で「おはよう」と隣のハナの頭を撫で、眠気まなこのままぼんやりと夢の内容を思い出そうとする。
 『何処にいたのか』
 自分が行った事ある場所だった気がするし、行った事ない場所だった気がする。《行った事ない場所》でも、映像や写真などで見た事ある場所のようだった気がするし、全く知らない場所だった気もする。
 『屋内だったか屋外だったか』
 建物の中だった気がするし、外だった気もする。
 『自分は居たか』
 自分自身は居たのは覚えている。身体を動かして、夢の中を動き回ったり何か作業をしていた感覚がある。だが具体的に何をしていたかは分からない。
 『自分以外に誰か居たか』
 居たような気がするし、居なかった気もする。
 自分以外の何かと会話をしていた気もするし、していなかった気もする。
「……」
 駄目だ。本当に思い出せない。
 暖かくて、優しい夢だったはずで、思い出したいのにそれが叶わない。
 夢は、見たとしても忘れる事が殆どで、しょうがない事だ。
 でも、とても素敵な夢だったのは何となく分かる。目覚ましの音と共に目が覚めた時、胸が温かくて穏やかな気持ちだったから。
 どうせ忘れるなら眠ったまま、ずっと夢を見ていたかった。
 なんて、そんな事思ったり言ったりしたら心配されるだろうから止めよう。よく関わる殆どの者が心配してきそうだと優に想像できた。あいつらの前で言おうものなら、何かしら無理やりにでもしてきそうだ。あいつらはそういう奴らだと数年の付き合いで、これでもかという程目の当たりにしてきた。勿論俺自身がされた事もある。
「……顔洗ってこよ」
 軽く頭を振って、まだ瞼が重く開かない目を擦りながら緩慢な動きで立ち上がると、顔を洗いに居室を出た。

1/13/2024, 12:42:59 PM