泡沫

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夕焼けを見る。
青白く眩しかった空は、堕ちた太陽の光に当てられて橙に濃く染まっている。
私の足元にも、暗く深い影が静かに佇んでいる。まるで私のじゃないような深淵。夕焼けが生み出した暗闇。でも、この時間は嫌いじゃない。
でも、私はこの時間を捨てなくてはいけない。いつまでも過去に縋って、よろよろと一人で歩いているなんてみっともない。でも、
「そんなこと出来てたら、もうここには居ないんだよなあ」
誰もいない公園で、一人。誰にも届かない声は、 どこにも行かず一人で消えた。それは、いつまでも一人になれない私の結末を模しているようで、また勝手に堕ちていく。心にいる君から離れられず、もう会わないと決めた事実から目を背けて、もう嗅げないコーヒーの匂いに思いを馳せる。私はずっと、ブラックは飲めなかったな。
君は何をしているだろうか。元気にしているかな。勉強で苦手な所はどうしてるんだろう。後輩とは仲良くしているかな。いつものカフェで背伸びして飲んでたコーヒーに砂糖を入れる二人の時間が楽しかったな。君は、時間が経つにつれて入れなくなっていったけれど。
もう学校で挨拶も出来ないけれど。一緒に帰るのも、あの先生の愚痴を言い合うのも、帰りにスイーツを食べるのも。全部、もう。
私は卒業したら、同棲するかもなんて思ってたよ。君はいつまで同じ気持ちだったかな。いつからすれ違ったかな。また、なんてね。
もう夕焼けは街中に溶けて、白く輝く月だけが辺りを優しく見守っていた。でも、今だけは見逃して欲しい。顔を上げている私を見ないで欲しい。こんな姿を見られないように。目元に浮かぶそれを反射させないように。
いつも、目が覚めたら君がいるんじゃないかって、教室で寝る癖が付いてしまった。もう責任を取ってくれる人はいないけれど。
辺りはすっかり暗くなった。迎えも来ないし、来るわけないから、ひっそりと一人帰路に着く。

7/11/2023, 9:23:54 AM