野中

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『二人ぼっち』


 生返事しか返ってこない。私が忠告した事を忘れるくせに、他の人が言ったことは覚えている。小馬鹿にしながら、甲斐甲斐しく世話を焼く。何年経っても、あなたはミスした時の印象のまま、私を扱う。

 こういう時、周りの世界が切り取られて、私とあなただけが取り残されたような気分になる。

 今なら殺せる。
 そう思う。心の底から。
 今は世界が歪んでいる。蔑ろにされる私と、平気な顔をしているあなた。そして、私を支配したがるあなたと、あなたを憎む私だけしかいない。

 でも、実際にはそうじゃない。
 怒りで視野が狭まっているから、二人ぼっちになった気がしているだけ。

 分かっている。
 分かっているうちは、殺さない。

 分からなくなったら?
 その時は多分、私は私を辞めているから、躊躇いなく殺すだろう。開放感に胸を満たして、腕を振り抜き、血を纏わせ。恍惚とした笑顔で、あなたを肉にするための処理を施すだろう。

 私は、「私」という正気が霧散するのを待っている。
 その瞬間を支えに、二人ぼっちの世界を生きている。

3/21/2024, 6:27:38 PM