彗星

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題:お揃いマグカップ

 ほうき星の天文台の台所では、新しく食器棚に入ったマグカップをせっせと磨くロゼッタの姿があった。そのマグカップは、ロゼッタにとって最高級品と言っても過言ではない。その理由はただ一つ。
 紫の彼とお揃いのマグカップだから。
 それは、梅雨が始まったばかりの頃。テニスの終了後に傘を忘れてしまったロゼッタの為に、自分の傘に入れてくれた紫の彼ーーワルイージに、せめてものお礼にと、何かを買ってあげることにしたのだ。そこでワルイージは、「なら、マグカップを買ってくれねえか。つい昨日落として割っちまったんだ」と言った。
 二人はココナッツモールの雑貨店に行き、ワルイージはマグカップを見つめながら、お揃いの物を買わないかと提案した。
 もちろん最初、私も買うなんてとロゼッタは断った。でもワルイージは意地悪な性格故に、「何か買ってくれんだろ?」と言う。それなら仕方がないと思い、お揃いの物を選び始めた。
 しばらく悩んだ末、ワルイージは青い薔薇のデザインのマグカップを選んだ。
 「あんたのイメージカラーの青を選んだんだ」と、少し照れながら言っていた。
 その様子が可愛らしくて、今も忘れられなくて、他のマグカップよりも大切に扱っているのだ。
 マグカップを磨く際に見える彼女の目には、愛しの彼が映っていた。

お題『マグカップ』

6/15/2025, 12:52:53 PM