かたいなか

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前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこの法務部執行課、実動班特殊即応部門の副部長は、ビジネスネームをツバメといいました。
管理局はビジネスネーム制を敷いており、
皆みんな、それぞれの部署ごとに、動物の名前のビジネスネームを貸与されておったのでした。

さて。
前回投稿分でこのツバメ、稲荷子狐を接待するお仕事を上司から言い渡されまして、
帰宅できたのが日の入りを少し過ぎた頃合い。
コンコン稲荷子狐の、頭を撫でてやって、ご馳走を注文してやって、ソースがついたら拭いてやって、要するにモフモフのちゃむちゃむ。
子狐はたいそう満足して、帰ってゆきました。
「はぁ。 おわった……」

御狐様の子供、お稲荷様の神使見習い、いずれ世界線管理局にチカラを貸してもらうかもしれない子狐の接待が終わったら、
あとは、ツバメ自身へのご褒美タイム。
というのもツバメ、コーヒーが大好きでして、
収蔵部収蔵課の局員、魔女のアンゴラおばあちゃんが店主をしている喫茶店に、
そこそこ高級で、なかなか味わえない、ツバメ好みのコーヒー豆が入荷したのです。

カフェインジャンキー・ツバメの胸は、カフェインによる動機・頻脈カンケーなしに、高鳴ります。
とある島の山の中腹、寒暖差に抱かれて育った、
コク深い、野性味のあふれる、しかしフルーティーな香りのかぐわしいコーヒーなのです。

「こんにちは」
チリンチリン、ちりんちりん。
お題どおりに胸が高鳴るツバメです。
「例の予約のコーヒーを、お願いします」

「やっと来たわね。いらっしゃい、ツバメ」
常連のツバメが喫茶店の扉を開けて、ドアベルが可愛らしく鳴り響きますと、
店主の魔女、アンゴラおばあちゃんが、穏やかな笑顔でツバメを迎えて、カウンターに案内しました。
「ちょうど今、焙煎が終わったところよ」

テーブルではガリガリがらがら。
不思議な不思議なハムスターが、濃い琥珀色の中深煎りを、少し粗めに挽いています……
ところでとっとこハムスター、なにか小さなプレートを首から下げています。
『私は魔晶の杖を1本噛みました』だそうです。
きっと高級品だったのでしょう(察してください)

「ああ……素晴らしい」

挽き終えた豆がセットされ、お湯の84°Cが静かに豆の上に置かれますと、
パッ、と一気に香りが咲いて、既に十分高鳴っておったツバメの胸は、更に高鳴ります。

煎りたての新鮮なスパイスのような、
じっくり熟成されて時を過ごしたワインのような、
しかしどこか、ワイルドベリーともワイルドチェリーとも知れぬ甘香が隠れておるような、
緻密に組み上げられたガラス細工か飴細工のような繊細さを、ツバメはたしかに、感じました。

「美しい香りがします」
「良いでしょう?意外とハニーチーズと合うのよ」

蒸らしている間にツバメの前に、ショコラとクッキーとドライフルーツと、それからハチミツを少し垂らしたチーズがそれぞれ整列して、
その真ん中に、カタ、かちり。
ツバメの胸を高鳴らせている主役、そこそこ高級なコーヒーが登場します。
ツバメの高鳴りは最高潮!昇天寸前です。

「さあ」
おかわりの2杯分も別個で添えて、アンゴラおばあちゃんが穏やかに、ツバメに言いました。
「どうぞ。めしあがれ」
ツバメは、それはそれは幸福な穏やかさでもって、
アンゴラおばあちゃんが淹れた最高の1杯の、最高の香りをまず、堪能しましたとさ。

3/20/2026, 4:59:58 AM