【神様だけが知っている】
高校の中庭の桜の木の下、告白をしてきたクラスメイトに「ごめんね」といつもの断り文句を口にした。教室に戻れば友人たちが、嬉々として事の顛末を尋ねてくる。断ったよとだけ答えれば、彼女たちは落胆の息を漏らした。
「またかぁ。いい加減、一回くらい誰かと付き合ってみれば良いのに。もったいなくない?」
問いかけられたセリフに、首を傾げる。もったいないかどうかで恋人を選ぶ必要性は全く理解できなかった。
「だって一番好きな相手にはできないのに、付き合ったりするのは失礼でしょ」
「真面目だよねぇ。付き合ってみたら案外好きになっちゃうってこともあるかもよ?」
「――ないよ、それは」
思ったよりも冷ややかな声が、自然と喉をついていた。脳裏によぎるのは満開の枝垂れ桜の下で微笑んだ美しいひとの姿。子供の頃からずっと、生まれ持った派手な外見のせいで爪弾きにされてきた私と、一緒にいてくれた唯一のひと。
「ええ、なにそれ? もしかして好きな人でもいるの?」
向けられた無邪気な疑問に、にっこりと笑ってみせた。これは私とあのひとだけの秘密。誰にも教えるつもりはない。
「さあ、どうだろうね」
人々が信仰を失ったことで誰からも忘れ去られ、それでも人間を慈しまずにはいられない、愚かで無垢な私の神様。私の恋は、神様だけが知っている。
7/4/2023, 10:08:35 PM