《巡り逢うその先に》
番外編
〈黒鉄銀次という男〉 ④
主な登場人物
金城小夜子
(きんじょうさよこ)
玲央 (れお)
真央 (まお)
綾乃 (母 あやの)
椎名友子 (しいなともこ)
若宮園子 (わかみやそのこ)
大吉 (だいきち)
東山純 (ひがしやまじゅん)
向井加寿磨 (むかいかずま)
ユカリ (母)
秀一 (義父)
桜井華 (さくらいはな)
大樹 (父 たいじゅ)
高峰桔梗(たかみねききょう)
樹 (いつき)
葛城晴美 (かつらぎはるみ)
犬塚刑事 (いぬづか)
足立刑事 (あだち)
柳田剛志 (やなぎだたかし)
桜井大樹(さくらいたいじゅ)
横山雅 (よこやまみやび)
京町琴美(きょうまちことみ)
倉敷響 (くらしきひびき)
黒鉄銀次 (くろがねぎんじ)
詩乃 (母 しの)
巌 (父 いわお)
「黒鉄さんですね。強そうでカッコいい名前ですね。これからご贔屓にして下さいね」
黒鉄さんはとても無口な人でほとんど何も喋らず1時間程で帰っていく。
黒鉄さんはいつも決まってママのいない日にひとりで店にやってくる。
静香さんはいつも決まって黒鉄さんのテーブルに私をつかせた。
少し強面の顔で‘ヤクザ’といわれたら‘やっぱり’という感じのだ。
3回目の来店からは、私を指名してくれるようになったので仕事は何をしているのか聞いてみることにした。
「アンタ、それを聞いてどうするんだ」
「お仕事がわかれば、話しが弾むかなって思って」
「静香から聞いてないのか?」
「何のことですか」
「いや、いい」
黒鉄さんはまた黙って、いつものように1時間程で帰っていった。
黒鉄さんが帰った後に静香さんに呼ばれて話しをした。
「ちょっと立ち入ったことを聞くけど、答えたくなかったら答えなくていいからね」
「なんですか?」
「カスミちゃんはここにくる前はどこにいたの」
私は正直に答えた。
「もしかして、そこで何かあった?」
私は驚いた、まさかあのことを知っているのではないか。
「どうしてですか?」
まずい、たぶん顔が引きつっている。
「ううん、何でもないの忘れて」
そう言って静香さんは仕事に戻っていった。
前にいた場所を教えたのはまずかっただろうか。
数日後、町で黒鉄さんが3才くらいの子供といるところを偶然見かけ声をかけようかと思ったが、ママから‘お客さんと店以外で会うな’と言われていたことを思い出し声をかけるのをやめたのだが、その子が黒鉄さんの子供なのかどうか気になり、後をつけてみた。
向かった先は公園で、子供を遊ばせ自分はベンチでタバコを吹かしている。
子供を目で追う訳でもなくまるで気にかけていない感じだ。
本当に自分の子供なのか疑ってしまう。
しばらくするとジャングルジムの方で5才くらいの子と揉め出し、そのうちつかみ合いの喧嘩になった。
黒鉄さんはそれをただ見ているだけで、止めようともしなかった。
そのうち相手の男の子のお母さんが気付いて止めに入り、帰っていった。
男の子は鼻血を流し半ベソをかいて黒鉄さんのところに戻ってきた。
すると“バシッ”っと男の子のホッペタを叩いた。
「男が簡単に泣くんじゃない。1対1の喧嘩で負けるんじゃない」
「だって、あっちの方が大きかったんだもん」
“バシッ”またホッペタを叩いた。
「言い訳をするな」
「だって、だって」
黒鉄さんの手がまた上がった。
私は小さい頃、父から虐待を受けていたことを思い出し、気付いたら走っていた。
‘ダメッ!叩かないで’
“バシッ”
間に合った。
私は男の子を守れた。
黒鉄さんが叩いたのは私の肩だった。
「どうしてアンタがここにいるんだ」
「お願いです、叩かないで!」
「俺の子に俺がなにをしようが勝手だろ」
「子供はずっと覚えているんです。大人になっても忘れないんです。それがトラウマになるんです。そして、今度は虐待するようになるんです」
黒鉄さんに睨み付けられたが、私も睨み返してやった。
この子のためにもここで引く訳にはいかないわ。
「わかったよ、帰るぞ銀次」
男の子は涙を堪えながら黒鉄さんについて行った。
つづく
9/15/2024, 10:38:35 PM