霜月 朔(創作)

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傘の中の秘密



貴方に手を振り払われてから、
私は一人ぼっち。
貴方の隣に戻りたくて、
何度も手を伸ばしたけど、
私の手は空っぽのまま。

貴方は、硝子の瞳に、
哀しみだけを宿して、
傷だらけの心を、抱えて、
闇の中に蹲るだけ。

雨粒の格子に囲まれた、
閉ざされた貴方の心に、
私の声は、届かない。

雨の降る、静かな街の中。
貴方は、当て所なく彷徨う。
貴方を見守る、私の影は、
只の雑踏の風景にしか、
なれないのだろう。

貴方は、きっと。
濡れた頬を、雨粒の所為にして、
傘で顔を隠して、泣くんだね。

傘の中の秘密。
心の傷を、知らない振りをする、
貴方さえ気付いていない、
昔からの、貴方の癖。

でも、いつか、
きっと、雨は止むから。
雨上がりの優しい空の下、
その、傘を閉じて、
ゆっくり、歩き出して欲しい。

…例え、その時。
貴方が、私じゃない人と、
手を取り合っていたとしても。

6/3/2025, 3:49:31 AM