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「ディスタンス」



高校のクラスの机が隣り同士で端的にいうと私は静かめな人とよく言われるタイプであなたは真逆なうるさい人でした。

最初は若干、隣りが騒がしくて思わず睨んでいた事があって、

「こえー」

とかあなたの友達が口走ると、

「いや、もう少し声落とそうか」

と冷静な顔をするあなたに(へー、意外)と思っていました。

春の季節の帰り道にただただ満開の桜を眺めて美しさに浸っていた時に、

「はい」

「え?」

通り過ぎていく見慣れた顔がははっと笑いながら、手に何かを押しつけていく姿に、戸惑ってしまいました。

手を開いて見ると、ひと粒の苺の飴がありました。

「いつもわりー、ごめん」

と片手を斜めに額に近づけて謝る姿に、(意外と見てるんじゃない)と思い、

「別に怒ってないから」

「えー?」

聞こえてないあなたの姿に私は誤魔化すように手を振って、

「また、明日ね」

「おう」

そんなやり取りと苺の飴の甘酸っぱさが大切な記憶になりました。

数年後ーーーーーーーー

「ソーシャルディスタンスを守りましょう」
とどこからか流れてくるアナウンスに辟易としながら、鈍色の空の下、閑散とした街を足早に歩いていく。

スマホにはあなたのことが書かれてありました。

亡くなったんだって。

(嘘、まさか)

だって、だって、

「また、同じクラスだな、よろしく」

「また? 腐れ縁ていうのかな?」

「まあ、いいじゃん。顔見知りがいると落ち着くんだわ、人見知りなとこあるからさ」

「あなたが人見知りだったら、今、世界中の人見知りを敵に回したよ」

と軽口をたたき合って挨拶したときのあなたの笑顔がすぐに思い出せたのに、

ぽつぽつと涙がスマホを濡らしていくほど届かぬ思いがあったのだと今、気づいたの。

マスクを外して足を止めて、涙が溢れてどうやってもとめられなくて鈍色の空もあなたのことを悼んでいるように雨が降り出しコンクリートを濡らしていきました。

4/15/2024, 11:58:40 AM