23 忘れられない、いつまでも
子供のころ、近所にあった小さなタコ焼き屋に通っていた。味はよくないけど、三個150円という安さにつられて、よくたまり場にしていた。店主はまあやる気のないおじさんで、鉄板にタコ焼きを放置したまま競馬の実況を聞いていた。万馬券を当てたらこんな店はすぐにでも畳んでやる、というのが口ぐせで、しかし当たる気配もなく、ぶつぶつ言いながらタコ焼きを焼いていた。
ある日店から「いーーよっしゃーーー」という声が聞こえ、それは本当に歓喜というかなんというか、ただ事ではない叫び声で、おっちゃんついに万馬券当てたんか!と思って店に駆け込んだら、店主はお客を無視して高笑いで踊り狂っていた。本当にすごい馬券を当てたんだ、この店なくなっちゃうのかな、と子供たちはしょんぼりした。
結論から言えばその競走は騎手の走行違反で無効競走になり、タコ焼き屋は二十年たった今も営業している。相変わらず、特には旨くない。最近は200円に値上げもした。ただあの「いーーよっしゃーーー」という叫びだけは、今も何故か忘れられず、子供だった僕らの胸に焼き付いているのだった。
5/10/2023, 9:59:34 AM