「これからも、ずっと」
彼の右腕に彫られたタトゥーに気づいたのは、
いつも着込んでいるスーツの上着を珍しく脱いでいたから。
白い長袖のカッターシャツにうっすらと見える模様に、ドキリとして慌ててうつむいて、スマホに夢中なふりをする。
ズキズキする頭の中で繰り返しつぶやく
(ねえ、それ……誰の名前?)
どんなに平静を装ったとしても、きっと声が裏返ってしまう。きっと声が震えてしまう。彼はきっとその時の気持ちを「一生変わらない」と誓い、その人の名前を身体に刻んだのだ。刻まれている間中、痛みを感じた数だけその人の名を心で唱え続けたのだ。
無防備に腕まくりをして
缶コーヒーを飲み始めた彼に、
ゆっくりとスマホから顔を上げ、いま気づいたというふうに、努めて明るく声をかける。
「あれ?タトゥーあるんだ?」
「うん。初めてみせたっけ?君も入れれば?好きな絵とか、これっていう確かな言葉とかでもいいんじゃない?」
「確かなものねえ。」
僕の答えを聞く前に、じゃあまた、と言って荷物をまとめて出ていく。
僕にとって確かなものは、君への決して明かせない想い。
身体よりももっと深いところで心に刻み込まれていて、ジクジクと膿んでゆく。そのたびに君の名前を唱える。
これからも、ずっと
永遠に続くであろうこの痛みを抱くように。
4/8/2023, 5:20:30 PM