目が覚めたら窓を開いて、空の様子を確認する。今日の天気は相変わらずの曇天。厚い雲に覆われてもう一週間も太陽を見れてないな、などと心の中で呟きながら、そんな空をスマホで撮影した。
これが私の朝の習慣。一日の始まりにまず空模様を記録することで、また今日も無事に起きられた事を実感し、頑張ろうと気を引き締めている。ちょっとしたおまじないのようなものだ。まあ、それ以外にも理由はあるのだけど。
開け放たれた窓から入る暖かな風が鼻をくすぐり、思わずくしゃみをする。すっかり春めいた今日この頃、花の盛りは今とばかりに植物たちがぷんぷんと花粉を撒き散らしている。花粉症には辛い時期だ。
私はそこまで重症では無いけども、幼馴染みなんかは毎年この時期になるとマスクをして目を真っ赤にしている。大丈夫だろうか、と考えていればピロンと小さな電子音が鳴った。噂をすれば、だ。
『おはよう こっちは今日もいい天気だよ〜! おひさま元気すぎる』
そんなメッセージには快晴の空をバックに撮ったマスク姿の幼馴染の写真が添付されている。花粉のせいか少し涙目ながらも元気そうに目を細める姿に思わずふふっと笑ってしまう。私も同じように撮ったばかりの曇天写真を送り返せばすぐに既読がついた。早いな。
『そっちはくもりか〜足して2で割って欲しいよね』
『洗濯物乾きづらい、花粉もあるけど』
『わかる』
電子音とともに目をうるうるさせたうさぎのスタンプが、3つ続けて送られてくる。幼馴染にどこか似てたので私がプレゼントしたものだ。気に入ってくれた様で何より。
天気の話が終われば近況報告、それが終わればまた次の話題。その後はまたまた別の話題に。朝の支度をしながら、四方八方に転がり続ける話題を問いかけては返すを繰り返す。そんな他愛もないやり取りが心地いい。それはきっと彼女も同じなのだろう。そうでなければ習慣が続くはずがないだろう。
数年前、家庭の事情とやらで遠方に引っ越した彼女とは毎朝のように連絡を取り合っている。話す内容なら山ほどあるけども、決まって最初は天気の話。どちらからともなく始まったこのやりとりはいつの間にか日課になって、私たちの日常を繋ぐ大事な架け橋になった。
『雲の向こうはいつも青空』なんて、昔誰かが言ってた格言が身に染みる。どんなに遠く離れていても、見える物が異なっていても、空は確かにそこにあって繋がっている。私が見る空が厚い雲に覆われていても、遠くの空の下で太陽に負けじと笑う幼馴染を思うだけで、何だか明るい気持ちになれる気がするのだ。こちらが曇天でも雨天でも猛吹雪でも、幼馴染のパワーで快晴になってしまう。
願うなら私にとっての太陽が幼馴染のように、幼馴染にとっての太陽が私でありたい。なんて、ちょっとポエムっぽいかな。
【遠くの空へ/快晴】
4/14/2023, 9:37:18 AM