石灰

Open App

お題『鋭い眼差し』

 僕が友だちとよく行った公園には「鬼」と呼ばれるお爺さんがいた。お爺さんはいつもボール遊びをする僕たちを睨みつけるようにしながらベンチによく座っていた。

 怒鳴られたことはなかったが、声をかけられることもなく、静かに睨みつけられるのは大変に居心地が悪かった。文句があるのなら言えばよいのに、といつも思っていたがお爺さんが話す姿を見ることはなかった。

 あのときの公園を見る度にふと考えるのだ。お爺さんは何を考えていたのだろうか、と。

 かつて自由にボール遊びができたあの場所はもう閑散としていて、「ボール遊び禁止」の立て看板だけがある。ベンチは人が溜まるのを防ぐためか、気が付いたら撤去されていた。もう子供が遊ぶ賑やかな声を随分と前から聞いていない。


 以前はベンチがあったところに立った僕はあの日を思い出す。あの懐かしい日を。自由にボール遊びができた日を。

 ふと、過去の記憶が蘇った。お爺さんが一度だけ慌てたように立ち上がったことがあった。あれは僕が蹴ったボールが公園の外を出たときだった。友だちは真っ直ぐ走って道路に出たボールを拾おうとしていた。


 あのとき、確かにお爺さんは立ち上がっていた。そんなことを今になって思い出したが。

 お爺さんは多分、たいそう目付きが悪かっただけなのだろう。

10/15/2024, 10:35:19 AM