"星が溢れる"
「急になんだ?渡したいもんがあるって」
人気のない休憩スペースにある、いつものテーブルに座る飛彩に質問をぶつけながら、向かいの椅子を引いて腰を下ろす。
遡って今朝、朝食を食べていると傍に置いていたスマホから、メッセージを受信した通知音が鳴り見てみると飛彩から『渡したい物がある』と、詳しい時間と共にメッセージが送られてきた。
指定された時間通りに、いつもの場所に向かうといつも座っているテーブルに既に着席して紙コップを傾けて中のコーヒー──恐らくカフェラテ──を啜り、俺の姿を認めると紙コップをゆっくりテーブルに置いて「来たか」と言った。
「急な呼び出し、時間も一方的に指定して済まない」
俺の質問に答えると、テーブルの下から綺麗にラッピングされた細長い物を出してテーブルの上に置いた。
「これは?」
「一日遅れてしまったプレゼントだ」
そう言うとプレゼントを手に取って、俺に差し出してきた。よく見ると、蝶々結びの下に【Happy White Day.】と筆記体で書かれたステッカーが貼られている。そのステッカーを見て、あぁ、と納得した。
「いいっつったのに」
「俺がしたくて、それを選んだんだ」
そう言って、再びコーヒーを啜る。
──全く強情だな。
呆れながら「開けていいか?」と聞くと「あぁ、勿論」と答えた。
リボンの端を引っ張り蝶々結びを解いて、ラッピングから取り出す。
中身は瓶いっぱいに入った、淡い緑色と水色の二色の金平糖。
蓋を開ければ星が溢れ出てくるのではないかと思う程、一粒一粒が綺麗な星の形をしている。
「気に入ってくれたようで良かった」
「……まぁ、有難く頂いとく」
そう言って包みを元に戻し、リボンをキュッと縛る。
「ありがと」
聞こえたかどうか微妙な声量で礼を言うと、柔らかく微笑んで小さく頷きながらコーヒーを啜った。
「……もう行く」
「あぁ、急な呼び出しに来てくれてありがとう」
その言葉を聞いて身を翻し、廊下に出て「じゃ、またな」と片手を上げると「また」とこちらも片手を上げて返してきた。その様を見守ると曲がって正面玄関を出て、帰路に着いた。
──大事に食べよ。
浮き足立つのを必死に抑えながら、早足で進んで行った。
3/15/2024, 2:58:34 PM