せつか

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いつもいつも、突然だった。
腕を、髪を掴まれる。
襟首を引き寄せられる。
無理矢理立たされる。
そこにいろと押さえつけられ、早くしろとせかされ、うるさいと殴られて罰を受けた。

「冷えてきたから、これ」
てっきりコーヒーだと思っていたら、入っていたのは白く少しどろりとした液体だった。
「甘酒」
「――飲んだことないな」
「そうなんだ? 私は結構好きだな。体が芯から温まる感じがして」
独特の香りが鼻をつく。
一瞬の躊躇のあと口に含むと、少し粒が残る独特の感触に戸惑う。だが、たしかに味は悪くなかった。
甘さと温かさがゆっくりと喉を通り、胸に落ちていく感覚が分かる。
じわりと広がるそれは不思議な安堵を呼び起こした。

「寒暖差が激しいから体がついていかないね」
なんてことのない、ただの会話。
「夏は冷やしても美味しいし、こうやって温めても美味しいから常備しといてもいいかな。今度大きいパック買ってもいい?」
「好きにしろ」
「美味しかった?」
「悪くない」
正直、好きな味だった。
「ん、じゃあ今度買ってくる」
半分独り言のようなものなのだろう。だが端々に相手を·····つまりは私を気遣うニュアンスがあることに、ある意味感動を覚える。
――愛を一身に受けて育つと、こうなるのか。

はかない雪粒を両手で受け止めるような。
落ちそうな花びらをそっと包み込むような。
産まれたばかりの子猫を毛布でそっとくるむような。
そんな柔らかで、あたたかな感情。

私には決して与えられなかったものが、私にはついぞ育たなかったものが、目の前にある。

失いたくないと、心の底から思った。


END



「そっと包み込んで」

5/23/2025, 4:16:14 PM