雪
1999年12月24日
私は、太陽を見たことがない
「みなさん!手を合わせて!さぁ神様に感謝を!、いただきます!」
「「「いただきます!」」」
みんな何の疑問も抱かずに手を合わせて、そしてご飯を食べている
私からすればこの世に神様なんていないと思う
もし神様がいるのであれば、もうとっくにこの世界はどうにかなっているはずだから
齢12歳の私はそんな世の中に対する不満を抱きながら生きている
ただ一人私は、目の前に置かれたご飯を見つめているだけ
「みなさん!礼拝堂に行きますよ。ちゃんとコートは着ましたか」
「「「はーい」」」
みんなこの状況に何の違和感も感じていない
私のようなまだ年端もいかない子どもたちにとってはこの世界が当たり前
でも私には理解できなかった
この世界には時間がない
時間は止まったままなのだ
だから永遠に太陽は昇らない
ここ何十年以上、夜のまま時間は止まっている
外に出るときは特殊な毛皮のコートを着ないと凍え死んでしまうほどの寒さが広がる世界
「お姉さんが今からこの絵本をみなさんに読むので、静かに聞いてくれるとうれしいな。」
礼拝堂ではボランティアのお姉さんが待っていた
そのお姉さんはやさしい声音で言ってくれた
みんな「はーい」と返事をする
そしてみんな静かに座って、少しせり上がった舞台の上のお姉さんへと視線を向ける
お姉さんは絵本の読み聞かせを始めてくれる
私にはやっぱりこの状況が理解できない
屋外にむやみに出ることはできず、くたびれた屋内にみんなで身を寄せ合う
「もう無理」
私はそう小声で言って、礼拝堂から飛び出る
コートを着ないで、屋外へと飛び出る
寒い。私は何の目的もなく真っ暗で誰もいない町中を駆ける
限界は意外とすぐに来て、私は寒さに立ち止まり、縮こまる
「もう無理、、、」
私はこのまま一人孤独に死んでいくんだ
「大丈夫。」
死にかけの私に、やさしい声音が降りかかる
そして後ろから私の縮こまっている背中にコートが羽織られる
「やだ!もうほっといて!」
私はそのコートを跳ね除ける
そして後ろを振り向くと、そこには読み聞かせボランティアのお姉さんがいた
もちろんコートを着て、そして私のためのコートも手にしている
「寒いよ。」
お姉さんはやさしい声で心配してくれる
「もうこのまま死なせて、、」
お姉さんは私の正面へとしゃがみ込む
私は縮こまりながら俯く
寒い。私は手を擦る
すると手があたたかくなった
体にやさしいあたたかさを感じる
私は正面を向いた
「えっ」
私は驚いて、尻もちをつく
そこには炎があった
お姉さんは手を差し出していて、その手のひらの上からは炎が上がっている
「あたたかい。」
お姉さんはやさしい声で問いかける
「なにこれ?どういうこと?」
私は困惑する
寒さで幻覚が見えているに違いない
「これはね。熱くない炎だよ。でもあたたかいよ。」
「、、、」
「これは、、、雪、かな。生まれては消えてを繰り返す雪みたいな炎だよ。手をかざしてみて。」
お姉さんはまるで言い訳を言うように、しどろもどろに言う
まだ意味がわからない
でも私は試しに、その炎に手をかざしてみる
「あたたかい」
それにはやさしいあたたかさがあった
「でしょ。」
お姉さんはやさしい笑顔を私に向けてくれる
その顔を見て、私はこれ以上この炎に関して詮索しないようにした
それがやさしさと思っての考えだった
この世の中は理解できないことでありふれている
世界もこの炎もそうだ
私は炎の向こう側にいるお姉さんに聞いてみる
「お姉さんは太陽を見たことがある?」
「ないよ。」
やさしい炎と沈黙が広がる
「太陽、見たいの。」
お姉さんは問いかける
私は首を横に振る
「太陽かぁ。」
お姉さんは夜空にそう呟く
「本当に大丈夫?」
「うん、一人で大丈夫だから」
私はコートを着て一人で外へと出る
「舗装されていない道は歩かないようにね」
先生の声は常に心配一色だった
私は何の目的もなく一人暗い街中を歩き出した
礼拝堂を勝手に飛び出した日から先生たちが私のことを心配して、一人での外出をなかなか許してくれなかった
でも今日はどうしても一人になりたい気分だったので、なんとか押し切った
街は変わりなく真っ暗で人はほとんどいない
長期的な夜の到来はこの世界に寒さを与えた
その寒さは世界を大きく変えてしまった
既存の建物はすべてその寒さに耐えうることができず、利用されることもなく、時間とともに廃れていった
この街も廃都市と化していた
そして道も一緒
既存の道は底冷えにより歩くことさえできない
だからしっかりと舗装された道を歩かなければいけないのだ
私はそんな街を目的もなく一人歩いていた
「何してるの。」
後ろからやさしい声が聞こえてきた
振り向かなくてもわかった、ボランティアのお姉さんだ
だから私はそのまま歩きながら答える
「お姉さんには関係ないでしょ」
「そっかぁ。」
私は歩き続ける
「今日も寒いね。」
お姉さんは私の後ろについてきて、まだ話しかけてくる
私は無視して歩き続ける
「太陽、見たいの。」
「もうついてこないで!」
私は振り向いて、しつこいお姉さんに怒鳴る
「えっ」
私は驚いた
「なに、その格好、」
私はそう口にしていた
お姉さんはコートを着ていなかった
それだけではない、サンタクロースの格好をしているのだ
「今日は12月24日でしょ。」
理解できない
「いや、、そんなの私たちが生まれる前からずっとそうじゃん」
この世界は1999年12月24日で時間が止まっている
そんなのは当たり前
「それよりも、コートは?」
私は一番の問題点をつく
「大丈夫だよ。これ、意外とあたたかいの。」
そんなわけがない
そのサンタクロースの格好は脚や腕が露出している
これであたたかいわけがない
そう思っているとお姉さんは答えてくれた
「まぁそれは建前で。私、寒いのは平気なの。」
「それはこの前の、、雪みたいな炎の力で?」
普通の人間であれば絶対に生きられない寒さに耐えられるとすればそれしか私には考えられなかった
「まぁそんな感じかな。あそこにこの街で一番高いビルがあるでしょ。」
お姉さんは話を変えた
私はお姉さんが指差した方、そのビルの方を見る
「あの辺りを見ててね。」
「どういう意味?」
私はお姉さんの言葉が理解できなく、意味を問う
でもお姉さんは「見たらわかるよ。」とだけ答えて、去っていってしまった
それを見送り、私は再び何の目的もなく歩き出した
この街にいれば嫌でも、どこからでもあのビルは見える
それほどに高いからだ
先ほどお姉さんが指差したそのビルを気にしながら私は歩き続けていた
するとそのビルの屋上になにやら人影が見えた
私は立ち止まる
「えっ」
私は驚いた
その人影はビルの屋上から落ちたのだ
その時だった
「うわっ!眩しいっ」
その人影は爆発的に激しく燃え上がったのだ
なんとか目を見開いてそれを見ると、それはやさしく燃え上がる大きい炎だった
それは街を照らした
そしてすぐに消えていった
まるで生まれては消える雪のような、太陽
私は、初めて太陽を見た
「どうだった。」
声がして、後ろに振り向くと、そこにはサンタクロースのお姉さんが立っていた
この世の中は理解できないことでありふれている
そして自分でもよくわからないが私はそう口にした、
「お姉さん、ありがと」
私はそう言って、微笑む
1/8/2026, 2:36:33 AM