香る夢

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色素の薄い、きれいな男の子だった。
砂場あそびをしていた私のそばに、おずおずと近づいてきて、こう言った。
「ぼく…レオ。…いっしょに」

これがレオと私の出会いだった。

ハーフであるレオは、恐ろしく目立つ外見をしていた。
透き通るほどに白い肌。くっきりとした二重に、薔薇色の頬。まさに天使だった。
そんなレオを周囲が放っておくわけもなく、ある者は憧れ、ある者は嫉妬した。なにかとまわりが騒がしいレオは、なぜか私のそばを好んで離れなかった。

「みんな呼んでるよ?」
「カホといるほうがいい」
困って私がレオに促しても、レオはひっそりと、でも頑固にゆずらなかった。
私はといえば、外見に反して控えめで優しい彼に好感を抱いていたが、年齢を重ねるごとにますます美しさに磨きがかかっていく彼に、気後れもしていた。

小学五年生になった、ある日だった。
「ぼく、お父さんの国に帰る」
明日から夏休みだという終業式の帰り道、レオは言った。
暑い日だった。深緑のすき間からさす陽光が、目に痛かった。
「…そんな急に」
「言えなかった」
レオはうつむいて立ち止まり、下唇を噛んだ。何か言いたげにしては、何度も顔を上げ、そして下げた。
五分ほどもそうしていただろうか。あまりの暑さに、私はついに歩きだした。私だって、何を言っていいかわからなかった。
「カホ」
慌てたレオの声が追ってくる。振り向くと、レオはかすかに言った。
「あい…I、LOVE…」

そのときだった。
「レオ!転校しちゃうんだって?」
レオの取り巻きたちだった。
彼女たちが来れば、私の出番はもうない。あっという間に取り囲まれ、私とレオの間に距離ができた。
とても入るすき間なんてない。私は再び歩きだした。
「カホ!」
見れば、彼女らをかきわけ、私のほうをまっすぐ指差すレオがいた。
指差すばかりで、言葉はない。
必死な表情だった。
でも、何がいいたいのかわからない。たまらなくなって、私は走って帰った。レオを置いて。

夏休みが明けてすぐ、レオは転校した。
教室の窓から見える飛行機雲ばかりみていて、私は先生に怒られた。
あのとき何を言いかけたのだろう。いつか訊けるときが来るだろうか。

何度目かの夏が来た。
高校生になった私は、教室で窓を眺めていた。
飛行機雲を探すのが、クセになっている。
「今日、転校生来るらしいよ!なんとハーフだって!」
隣の席の舞が興奮して話してくる。
「ほらきたよ」
教室に入ってきたのは、色素の薄い男の子だった。一瞬、目を見張るほど美しい顔立ちをしている。
私は息をのんだ。

「カホ」
そういって、彼はきれいに微笑みながら、声にならないなにかをつぶやき、私のほうをまっすぐに指差した。

あの日の続きが、訊けるかもしれない。

1/30/2024, 2:43:46 AM