背筋を伸ばす。
紅茶を口に運ぶ。
目はそっと伏せて、
緩やかに円く広がるミルクティーの波を数える。
砂糖抜き。
茶葉はとびきり多め。
ミルクもとびきり多く。
ゆっくりと体に沁みゆくのは、
濃いセイロンティーの香り。
柔らかくて丸いミルクの深い安らぎ。
そして、貴方の挑発的で見透かすような視線。
そっと、心にミルクの膜を張る。
紅茶の香りが、肩の力を奪ってゆく。
伏せた目を上げれば、私の心はもう夜霧の向こう。
私は私をそっと取り繕う。
恋心は、たっぷりのクロテッドクリームと共に
スコーンに掬って乗せて飲み込んで。
私は貴方と相対する。
全ては紅茶の香りと、触れ合う食器の音の
そのわずかな隙間に潜む夢の出来事に過ぎない。
私は今やっと 貴方に微笑みかけた。
お題:何気ないふり
3/30/2024, 11:45:08 AM