かも肉

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作品65 ふとした瞬間



 タイマーを3分にセットしてからスタートボタンを押し、蓋を剥がしてお湯を注ぐ。真っ白な湯気がやかんから出てきて、少しの間メガネに張り付いた。線まで注げたら、カップの上にやかんを少しの間乗せる。しばらくしてやかんの熱で蓋が元のようにくっついたら、コンロの上に戻す。
 片手には氷水が入ったガラスのコップとタイマーを。もう片方には割り箸と少し熱いカップラーメンを持って、テレビの前にある小さいちゃぶ台の上に置く。

 ……我ながら、何一つ無駄のない作業だ。
 そう独り言を言いながら、女性みたいな長さになってしまった髪を一つにまとめる。
 こんな無駄のない動作だが、普段からカップラーメンを食べてるわけじゃない。何なら数年ぶりに食べるくらいだ。
 いつもは近くのパン屋で売れ残ったパンを買ったり、賞味期限間近の惣菜をスーパーで買ったり、時間があれば簡単に作るとかして、ちゃんと食事はしている。ただ今日は、パッケージにでっかく書かれたこの『新発売!!!』という文字に惹かれてつい買ってしまった。ついでに言うと、一番好きなカレー味も一つ買ってしまった。
 まあ、たまにはこういう食事もあるということで。別に誰かに怒られているわけじゃないが、一応そう言ってこの食事を正当化しといた。
 しばらくするとタイマーが鳴った。メガネを外し、蓋をペリペリと剥がした。食欲をそそる匂いが部屋に広がる。カレーのいい匂いだ。
 と思ってから、新作ではなく間違えてカレーの方にお湯を注いでしまったことに気づいた。あーやってしまった。同じ茶色に騙された。まあ、確実に好きな味だし、良しとしよう。いつもみたいに、秒で自己完結した。
 割り箸を口に咥えながらテレビをつけ、そのまま箸を割る。綺麗に割れて、少しテンションが上がった。
 いただきますと言って、まずスープを飲む。ああこの味。安定にうまい。そして麺を啜る。麺にしてはやけにコシのないこの麺が、俺はそんなに嫌いではない。本場のラーメンに怒られそうだが、美味いから許されるはずだ。
 麺を食べ、申し訳程度に入った具を食べ、スープを飲む。そしてまた麺を食べ、水を飲む。テレビでは最近話題と紹介された若手の芸人が派手にスベっていた。
 しばらくすると、麺がなくなり、スープだけが残った。
 立ち上がり、キッチンへ向かう。たしか米を冷凍していたはずだ。あったあったと喋りながら、レンジで温める。いい感じに温まってから、チーズとスプーンを手に取り、ちゃぶ台へ戻った。
 余ったスープの中に熱々の米を入れ、チーズも入れる。明日絶対肌大変なことになるなと思いながら、スプーンでちょっとだけ混ぜる。いい感じに混ざったところで、また食べ始める。悪魔みたいな美味さだ。
 すぐに〆は無くなった。ごちそうさまでしたと言ってまた立ち上がり、またキッチンへ向かう。少しぬるくなってしまったやかんの中のお湯を温め直しながら、マグカップに紅茶のティーバッグを入れた。そして冷蔵庫から小さい白い箱を取り出し、フォークと皿を食器棚から取って、それだけ先にちゃぶ台に置いといた。すぐにお湯が沸き、マグカップの中に注ぐ。カレーとはまた違う、いい匂いだ。
 出来上がった紅茶を持ちながら、ちゃぶ台へ戻る。そして白い箱からお楽しみのケーキを取り出す。コレのために今月頑張ったと言っても過言ではない。
 高まる気持ちを抑えて、紅茶を一口飲む。それではお楽しみの。

 いただきます。

 そっと口に運び、計算しつくされたその甘さに思わず笑みが溢れる。本当にもう最高だ!
 テレビでは、先程の芸人のボケで会場が大盛り上がりしていた。
 笑いながらふと、こういう時間がずっと続けばいいなと思った。


⸺⸺⸺
幸せなで笑っている時にふと我に返るあの時間が、幸せにただ浸っているときよりもさらに幸せを感じられる気がするから、あの時間はそれなりに好き。

4/27/2025, 12:24:00 PM