『罪の名を呼ぶ教会で』
――第一章「雪の下で待つ人」
足元の雪が、ざくり、と音を立てた。
白と灰の世界を、ひとりで歩いている。
冷たいのに、痛くない。感覚がもう、遠い。
そんなことに気づくのは、ふと立ち止まってしまったときだった。
人生の終わらせ方なんて、本当は知らない。
ただ、「もういいや」と思っただけだった。
家に帰らず、誰にも行き先を告げずに、
気づけば山の中を彷徨っていた。
そして、そこにあったのは、
黒く、ひっそりとたたずむ廃教会だった。
屋根には雪が積もり、十字架も傾いている。
扉は半分外れ、まるで「どうぞ」と言っているように思えた。
ここでいい。
ここなら、誰にも見つからない。
誰にも迷惑をかけない。
そんな風に思ったのは、ある種の自己満足だったかもしれない。
扉を押すと、軋んだ音とともに冷たい空気が流れ込んできた。
でも、その中に、ほんのわずかだけ、温もりの気配があった。
――人の、気配だ。
「……誰?」
声がした。
少女の声。
静かで、乾いていて、でも、何かを閉じ込めている声だった。
驚いて振り返ると、
奥の方、倒れたベンチの影から、
黒い上着を羽織った少女が、こちらを見つめていた。
その目には、驚きも、警戒もない。
ただ、ずっとそこにいたような、そんな目。
「……死にに来たの?」
彼女はそう言った。
まるで、すでに何人もの“そういう人”と出会ってきたかのように。
僕は何も答えられなかった。
なぜならその問いは、まさしく、
僕自身がまだ言葉にできなかったことだったからだ。
4/12/2025, 8:35:48 AM