全日本テニス選手権地区予選決勝
「くっ…っだぁ!!」
俺はとんでもない怪物を相手にしていた。
身体は小さいくせに、とんでもなく球速が速い。
すばしっこいから、俺が打った球にすぐに追いつかれる。
さらに頭も良く、こちらの動きを読んで的確に逆をついてくる。
「ぜぇ…ぜえ…んらぁ!」
必死に球を返し続ける。
高校三年生の俺は、これが最後の大会だった。
この地区の参加者が少ないせいか、次の県大会に進めるのは優勝者だけだ。
俺は全国大会に出場できなかったら、プロを諦めると決めていた。
だからこの試合は絶対に負けられなかった。
ッパーン!!!
そんな俺の思いなんか関係ないと言わんばかりに、対戦相手である高校一年の森井 想は、さらにギアを上げて俺にトドメを刺してくる。
試合開始から1時間10分、想からのサーブ。
少し長めの玉突きの後、決意を固めた目でこちらを睨む。
ビュン!という空気を切り裂く音が聞こえたと思ったら、すでにボールはサービスコートをワンバウンドしていた。
予想と真逆のワイド方向、一歩も足が動かなかった。
サービスエース…ゲームセット…
ゲームカウント1-6、2-6 完全な敗北だ。
俺の夢が終わった。
試合後の握手の時、恐る恐るこちらを見ながら想が話しかけてきた。
「兄さん、最後、我に返って迷っちゃった、ごめん」
「…いや、一思いに決めてくれてよかったよ。おめでとう、想」
弟のはにかむような笑みを見て、俺は自分が泣いていることに気づいた。
それから3年後、俺は今、最高のテニスプレイヤーを目の前にしている。
「コーチとして、僕と一緒に世界一目指さない?」
弟のこの言葉にどれだけ救われたか。
コーチ席から誰よりも大きい声で、今日も俺は想を応援している。
9/23/2025, 12:01:05 PM