選び取った道を後悔しているわけではない。
共に歩くと誓った相手の言葉を信じていないわけでもない。
ただ、ふとした瞬間に振り返ると。
幾度も幾度も繰り返してきた、血に塗れた過去がぽっかりと口を開けて待ち構えている。
私の罪業を知っている過去達は、ぽっかり開いた奈落の底から赤く染まった両手を伸ばして、私の足に、腕に絡みつく。
「幸せになれるとでも――?」
「私達を振り切って生きられるとでも――?」
その声に私は応える術を持たず、ただ立ち尽くすことしか出来ない。
歩き始めた足は結局こうして、枷をつけられたかのように引きずることしか出来なくなるのだ。
「××××××」
名を呼ばれた。
差し伸べられた手。向けられた視線。
私のすぐ後ろで口を開けていた過去は、その声と視線の力強さに瞬く間に消えてしまう。
「行こう」
たった一言。
この短い言葉で私は再び歩き出そうと思い直す。
幸せにはなれないだろう。
過去を振り切ることなど出来ないだろう。
それはきっと、相手も同じで。
けれど、だからこそ。
共に歩く意味があるのだと、差し伸べられた手を取りながら考える。
私はきっと、これからも。
明日に向かって歩く、でも。
何度も歩みを止めるだろう。
追いついて来た過去に捉えられ、身動き出来なくなるだろう。
それでも共に歩くと誓ったものがいる限り。
この選択は、きっと間違っていない。
END
「明日に向かって歩く、でも」
1/20/2025, 3:58:07 PM