「冒険」
雷鳴が鳴り響き、魔王の強さを思い知らされる。
勇者は今、魔王討伐の旅に出ようとしていた。
「魔王の力はますます強くなっている。くれぐれも気をつけるのだぞ」
王様が力強く頷いた。
各地から精鋭部隊を集めて毎年魔王討伐に送り出している。
しかし帰ってきたパーティは今までいない。
今度こそ…
王様たちの瞳が熱く燃えている。
今回の討伐パーティは姫様の許婚でもあった。だからこそ本当は行ってほしくない。そして必ず帰ってきてほしい。
「まーなんとかなります。必ず良い報告を持って帰ってきますよ」
ヘラヘラと笑いながら勇者は言った。
こちらが見事にずっこけそうなほど軽い返事だった。
こいつはいい奴ではあるが、どこか楽観的というかバカというか。
そういえば姫様がお妃様の大事な形見をなくされてしまったときも「大丈夫、大丈夫。いつか見つかるって」と適当に流してビンタされていたのを思い出したぞ。まるで雷のようなビンタだったと後で彼は語っていたっけ。
王族に近い存在だが、いつ不敬罪になってもおかしくない奴ではあった。
魔王の攻撃で少しはマシになって帰ってきてほしいものだ。
気丈に振る舞っていた姫様が、突如勇者の首に抱きついた。
「決して負けない…」
ステンドグラスの光が姫様の涙を照らしまさにダイヤモンドのように輝いた。
ああ、健気な姫様。あんなちゃらんぽらんでいい加減な男でも愛しているのですね。
臣下はみなうつむき鼻をすする音が響いた。
王様も目尻に涙を浮かべている。
この2人が永遠に離れ離れにならないよう神よ、お守りください。
勇者は何も言わず姫様を抱きしめた。
姫様の腰に回す手がひそかに震えていたのは気のせいだろう。
そしていざ出発のとき。馬に乗り城門をくぐる。
流石にカッコつけようかと思ったのか勇者は剣を抜いた。じっとこちらを見つめ、剣を構えた。
その時、
ドッカーーーン!!!!!
雷が勇者の剣に落ちた。
姫様の悲鳴が聞こえ、慌てて衛兵たちが勇者を囲む。
どうやら髪の毛がちりちりになるだけで済んだようだ。
「だからあれほど雷に気をつけろと言ったのに…」
王様が頭を抱える。魔王の力は雷なのだ。
こんなところで剣を構えたら雷が落ちるに決まっているじゃないか。
「あれで少しはマシになってくれたらいいのですが」
つい本音が口をついて出てしまった。
姫様がふふっと笑ったことに私は少し違和感を覚えた。
7/11/2025, 12:51:00 PM