【吹き抜ける風】
夏の日。わたしは草原に立ち、空を見上げる。
雲一つ無く、ギラギラと熱く燃える太陽と、青空が広がるばかりだ。
そう、空はただ青さを主張している。そこには何の影も無い。
わたしはかつて、あの空に浮かんでいた島の住人だった。
内戦が続き、島は地に落ち、現在は地上の観光名所となっている。
わたしは難民として地上の国に受け入れられて、こうして生きている。
草原を風が吹き抜けていく。陽の光に熱く焼かれた肌を、生暖かい風が撫ぜていく。
かつて島にいた頃は、地上に吹く風がどんなかなんて、想像もしなかった。想像しようとも思わなかった。そんな場所で、わたしは生きている。
たまにこうして故郷があったはずの空を見上げても、青空には何の影も無く。
何となくむなしさのようなものが胸に広がった。
この地上で、わたしは生きるしかないのだと、もう故郷は無いのだと、ここに立つと思い知らされる。
わたしはまた、かつての影を探しながら、夏の暑さに額を拭った。
11/19/2025, 3:43:15 PM