「そう泣くなって。別に、俺のことを忘れるわけじゃないんだ。」
体が白い鱗に包まれ始めた彼は、既に龍の体表ように変貌した手を私の頬に伸ばした。
反射が虹色に光っている鉄のように硬い白い鱗に私の涙が伝う。
「…もう時間だな。」
白鱗の手を離した。私の頬にはまだ彼に僅かに残っていた温もりが跡を引いている。
「まって、あのね……
ううん、いい。決してさよならは言わないでほしいの。それだけよ」
彼はその言葉を聞くと、少し立ち止まって、いつもと変わらない調子で明るく笑った。
「大丈夫。わかってるさ。
……じゃあな、また逢う日まで。」
そう言って彼は七色に光る水晶に取り込まれて消えていった。
彼のいた場所には白い鱗、そして形見の懐中時計が転がっている。
私は彼の温もりを、彼の残滓に求め続けた。
"さよなら"を知らないようにするために。
<さよならは言わないで>
12/3/2023, 2:58:33 PM