るに

Open App

薄暗い路地裏。
品揃えが良さそうだから
少し離れた大きなスーパーに
行きたかっただけなのに。
Googleマップを見ながら歩いてたのに
こんなに迷うとは。
この路地裏に入ってから
一度も人とすれ違わなかった。
教えてもらうことすらできない。
大人しくコンビニで買い揃えればよかった。
もう日没が近い。
風も強くなってきた。
震えた足で歩いていると、
前から寝癖が凄い人が歩いてきた。
ぴょんぴょんと跳ねた髪の毛は
その人の雰囲気にとても合っていた。
道を聞こうと声をかけると、
あー、えーっと、うち来る?
何をどう解釈したら
道を教える前に家に呼ぼうと思ったのだろう。
そんな顔をしていると、
慌てて付け足していた。
いや、もう日暮れちゃうし、
そのスーパーここからちょっと離れてるから。
なるほど納得。
早足で手を引かれてその人の家に行った。
路地裏に面していて、
こんなところに入り口が…
なんて思うところだった。
なんでも、
賑やかな所が苦手だそうで。
暖かいお茶といなり寿司を
ご馳走してもらった。
真夜中、
外から人が路地裏を歩く音が
結構聞こえてきた。
夜行性の人が多いのかな、この辺は。
朝、その人に道順を教えてもらった。
なんだか急いでるように見えたので
お礼を言ってすぐ立ち去ろうとするが
なにか引っかかる。
そうだ。
昨夜、
私ここから出たいんだよね。
はぐれ者だからさ、
一刻も早く帰りたいと思ってる。
と、その人が言ってたんだ。
あの!
よかったら一緒に来ませんか。
目を合わせようとしないその人は
無理してるような笑顔でこう言った。
私のことなんかどうでもいいから、
こんなところ二度と来ないで。
ていうか、
いい歳して迷子とか笑えてくるんですけど。
こっちは用事あるんだから
さっさと行ってよ。
昨夜との態度の違いに
少し戸惑ったが、
まあ、急いでたら誰でもこうなるかと、
教えてもらった道を歩いていった。
別れ際に
ありがとう、ごめんね。
という声が聞こえた気がして、
振り返ると
その人は
"Good Midnight!"
と言っているように見えた。
声は聞こえなかったけど、
なんとなく。

12/8/2024, 12:41:05 PM