蝉助

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段々と外側から冷えていっている事がわかる。
調子が悪く自力では起き上がれない日も増えて、吐き気や怠さは常におれの周りを囲っている。
もうすぐいなくなる、それは誰よりもおれが分かっていた。
死ぬのは怖い。
ハルサキの前では心配かけないよう振る舞ったけど、死んだ先のことなんて知り得ないし、その果てになにか報われごとがあるということも、おれは信じていない。
身体が止まれば人はそれまで。
永久の喪失に恐怖を抱くのは、当然のことだろう。
それでも取り繕いたい。
生来、おれはそういう人間だから。
周りには大切な人たちがいる。
みんなが傷付くことがおれにとって何よりの不幸で、誰かの幸福を守っていけるのならば、大抵のことは犠牲にしてきた。
それを不幸と思ったことはない。
両親が死んで、親族をたらい回しにされてきた時から、存在することを望まれていない人間だと理解した。
死んでほしいのではない、消えてほしいのだと。
表面がぐじゅぐじゅした傷口へ、木枯らしが吹き付けていくような感覚。
苦しかった。
だから、大切な人の糧となれるのなら、おれは喜んで全部を捧げることができる。
自分の感情を押し殺してでも何気ないフリをする、その理由として十分に足りうるだろう。
だから唱える。
「大丈夫」だって。
死への恐怖は誰も知らなくていい。
隠したままあちら側へ全て持っていくから、どうかみんなは、おれの最期は幸福で満ち溢れていたってこと信じてほしい。
ハルサキ、コト、シンヤさん。
いなくなっても、快活に死んでいった奴がいたなって思い出してね。
それがみんなの好きなヤギだから。

3/30/2024, 11:42:29 PM