杉浦先輩のデスクには、年季の入った箱が置いてある。有名すぎる某レジャー施設で販売されていたらしきお菓子の缶だ。
側面には、施設キャラクターであるネズミのカップルが、満面の笑みでポーズを決めており、そばには開園15周年記念の凝ったロゴが刻まれていた。そして、蓋の上のシールにはこう書いてあった——ひみつのおかしばこ。
月曜日の出社直後、先輩はチョコレートのファミリーパックを豪快に開け、逆さにして箱にぶちまける。仕事が立て込むと無言で箱を引き寄せて、中身を立て続けに口の中に放り込んだ。私の不得意な、高カカオのチョコレートだった。
「なにがひみつなんですか?」
いつだったか、一度本人に訊いてみたことがあった。
昼休憩の仮眠で癖のついた前髪を手で押さえながら、先輩は「え?」と半笑いでこちらを振り向いた。
「その箱」と私が指差すと、
「ああ」と腑に落ちた顔をして、先輩に手を掛ける。とても優しい目と指先が、慈しむ仕草で縁を撫でた。
「ふふっ、秘密」
自分から訊いておきながらなんだか恥ずかしくなって、私は曖昧に頷いてパソコンに目を戻した。
『秘密の箱』
10/25/2025, 8:41:44 AM