近藤らく

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この場所で



夫の転勤先が北陸に決まった年の冬。

いく日も続くどんよりとした薄暗い空を見上げながら、私は心の底から泣きたくなっていた。

宮崎生まれ、宮崎育ち。
結婚して北陸に住むまで、雪の降る冬の街など、同じ日本でありながら、テレビの向こうの遠い世界の出来事だった。

私の暮らす小さなこの街は、市街地から離れた山沿いにある。

毎年のように雪が降り、多い年には車が半分埋まるほど、町中が白く覆われる。

冬の北陸から逃れたくて、私は毎年、正月を宮崎の実家で過ごすようになった。
宮崎から日本海側へ近づくにつれて次第に重く暗くなる空を見ては、そのたびに胸の奥もまた曇ったものだ。

それから七年が過ぎたころ、私は長男を出産した。

子どもの成長は早い。

一年もすれば、危なっかしい足取りながら、一人で歩きはじめる。ある日、私は息子の手を引いて、初めて近くの公園へ出かけた。

まだ雪が少し残っていたが、歩けないほどではない。

息子は何度もつまずきながら雪を踏みしめ、草をちぎり、遊具に触れ、世界を確かめるように遊んでいる。

公園の梅の木には、ふくらんだ蕾が見える。

もうすぐこの寒い北陸にも、春が来るのだ。

そのとき、胸の奥に小さな灯がともるのを感じた。

私もまだよく知らないこの公園で、息子は遊んでいる。

私の知らない道が、公園が、校舎が、この子の故郷になっていく。

私はこの場所で、この子とともに、故郷をつくっていくのだ。

2/11/2026, 2:34:24 PM