つぶやくゆうき

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「君に届けと叫ぶ…さながら僕は道化師だ…」

声に出して読みながら顔に熱が帯びるのを感じる。

「ああ、どんなに笑われたってさ…愛を知れればいい…」

それでも読むのを辞めれない。いや辞めてしまいたいと気づいて貰えない。

そうして全文を読み切った上で、テーブル越しのマネージャーを軽く睨みつけた。
長年の付き合いだ。俺の気持ちは伝わってるだろう。
マネージャーは隣に座るプロデューサーに焦りながら伝えてくれた。

「だから言ったじゃないですか!彼はこのような歌詞で歌える人じゃないんですよ!」

その通りだマネージャー。よく言ってくれた。
俺は聴いてくれた人にビートを届けたくてミュージシャンをしている。
こんな小っ恥ずかしい歌詞で曲が作れるわけねぇだろ!

「いや〜すまないすまない。」
プロデューサーはさぞこの状況を楽しんでいるかのように笑いながら謝罪をする。

「実はこの歌詞はウチの新人が手がけたものでね。評判も良いんだが何より君に歌って欲しいと必死に売り込んできてね。」

そこまで言うと扉が開くと同時に気持ちのいい挨拶が耳に入る。
目を向けるとそこにはよく見知ってはいるがここにいるはずの無い人がいた。

「君は…路上の時からの…」

「はい!覚えてくださってたんですね!ありがとうございます!」

彼女は昔から、それこそインディーズデビューすらしていない時から応援してくれていたファンだった。その時も「いつか皆の心に届く曲を作りたい」とは言っていたが、まさかここで会うなんて…

「いや〜ウチの新人と顔見知りだったか!」
まるで今知ったかのような表情をして割腹よく笑っているが、多分ちゃんと下調べはついていただろうに。このタヌキ。

「今回の歌詞はぜひともあなたが歌うから価値があるのです!どうかお願いします!!」

熱心に頭を下げる彼女に根負けした俺は仕方なく曲を作ることにした。
いや本当は、自分の想いを曲げずに努力してここまで来てくれたことが素直に嬉しかったんだと思う。
それは俺の曲が人の夢を叶えた事実でもあるからだ。


結果、その曲は新しい作風となりチャート上位に入ると同時に映画のタイアップ曲の依頼が舞い込んでくることになるのだが、
それはまた別のお話。

『my heart 』

3/27/2023, 10:33:18 AM