ヒトモドキ

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20xx年人類は欲望によって文明を進めてきた。
衣食住を得る為の本能的な欲望を満たす中、文化が生まれ、人々は更なる欲望を手に入れた。それはやがて争いを生み、いくつもの文化を破壊しては人々の欲望を半ば強制的に本能的なものに近づけた。そうしてまた、本能的な欲求が満たされれば、それ以上の欲が湧くというサイクルを繰り返すうち人類は進歩し、和平を望むようになった我々の欲望は安定しつつあるのかもしれない。そして、いまやそれ以上に、世界は我々の欲望をコントロールしているように思える。いや、今に始まった事ではないのかもしれないが。
我々の欲望は何かしら管理されたものなのかもしれないというのは昔からよく聞く陰謀論ではある。それが世界的な権力者か、我々人類の支配者たる宇宙の何某か、はたまた創造主たる神なのかは考えるだけ無駄な事だろう。しかし、近代化の進んだ現代で話をするなら、さらには直接的なものに限定するのならば、皮肉な事にそれは既に人の手から離れつつある人工知能と安定化を図る薬物だ。
2000年代初期、人々の欲望は安定に向かいつつも、それ故に既存の欲望のサイクルを外れ淀み始めていた。
大きな争いが減り発展していた国では人々の欲望が本能的なものに回帰する事なく、そこから枝葉のように別れた様々な欲望がひしめきあい混沌としていたらしい。
本能に起因する欲求が薄くなったが故に、人々の多くは自らの欲望に絶望させられることになったのだった。
進化を重ね、地球を支配する種となった人類は、自らの欲望に対しての進化を求められるようになったのである。
そしてそれは非常にネガティブな形で達成されたと言えるだろう。ひたすら効率を重視する機械のように感情が欠落した思考で形成された文明によって、人類は欲望の沈静化と統一化を計ったのである。
古い世代の人間から見ればこれがまさにディストピアと呼べる情景なのかもしれない。
世界からは次々と無駄が省かれ、物事はより効率的になった。人々は争いを行わなくなり、飛躍した科学技術は世界のさらなる安定化をもたらした。
現在の人類は、一定の数を保ちつつ様々な個性をもった独立したAIと共生し、その保守管理を役割に応じ効率的に全うしている。この社会は我々の欲望をAIが引き受けているからこそ成り立つだろう。


欲望研究AI d2875ac 補助脳員検体 d2875ac-a3
識別固有名称 大竹 和男
検体状況 人格データ及び脳の保存
生体劣化 保存より146000日経過

当資料に関して、AI倫理管理の観点から資料の削除と共に検体の速やかな投棄が求められている。

3/1/2023, 5:00:10 PM