旅舟

Open App

『桜』


 空を埋め尽くすように舞い落ちる、桜の花びらを見上げてた。
 純情そうな純白のフリをして、ほんのり桃色に頬を染める恋をしていた。

「だいっきらい!」
「うそつき!」
 おでこを指先でツンって押されて、思わずへへへって舌を出した。

 世界中が敵に見えた。
 いじめと受験と親の不仲の中で、可愛がってたベットも死んじゃった。
 そんな時にあなたがくれた神社の合格祈願の御守り。
「お前と同じ学校に行きたい」
「私と?」
「だから、がんばれ」
「⋯う、うん」
 戸惑う私に、背の高いあなたが屈んで私の目線に合わせて、見つめて、言ったんだ。
「お前が、好きだから」
 いち、に、さん、三秒ほど真顔をキープして、そして急に咳をして、耳まで真っ赤になりながら、昭和のコントのように慌てふためき、少年に戻って、
「そう言うことで、よろしくな」
 二枚目ぶって、何度も躓きながら帰って行ったよね。
 めちゃくちゃカッコ悪くて笑えて、大好きだと思った。


 それから半年?

 今日は入学式の帰り道。
 桜は満開は過ぎたけどまだいっぱい咲いていた。

 いつ、手を握ろうか?
 いつ、キスまでするんだろう。
 そういえば私はまだ好きだと伝えていない。
 言った方がいい?
 えっ、いつ、言う、いま、いやいやいやいや⋯無理っしょ。
 頭の中はエロと純情で大紛糾。 

「これから何回、桜を見られるんだろう」
 ふいに、あなたが呟いた。
「何回、桜を見たって、今日の桜が一番だ」
「どうして?」
「お前が俺に、恋を告白する日だから」
 そう言いながら笑って、どうぞのゼスチャーをするあなた。

 えええええええええええええええ、えーーーーーーーーーーーーーー‼️

「好きです、付き合って、くださ、い?」
 本当に乗せられて、言っちゃったぁー。
「しょーがないなぁー」

 たぶん、ずっと私からの告白って言い続けられそうだ。
 負けたな。

 あなたと、私の恋に。




 

4/5/2025, 12:34:37 AM