「うんうん、そうだね。いずれ『この世界は』すべて、あなたの物になるんだろうね……でもさー」
いままさに、俺の剣で首をかき切られようとしている、聖女が言った。
「侵略を繰り返して、すべての地を征服し尽くして、じゃあ、その後は? あなたの趣味の侵略はもう、出来なくなっちゃうんだよ? そんなの、つまんなくない?」
俺が滅ぼしたどこかの国が、外世界から召喚した聖女。俺の闇魔法を圧倒する、聖なる力を持っているはずだったこの女には、そもそも魔力自体がこれっぽっちもなかった。
後々目障りになるだろうからと直々に消しに来てやったのに、とんだ無駄足だった、さっさと片付けて──と、そう考えていたのだが。
……それにしても。
俺が趣味で侵略をしている、だと?
「侵略は趣味などではない」
「へぇー。そう言うんなら、本当の趣味を教えてよ」
「っ、………………」
「ほらぁ。やっぱり他にないんでしょ、趣味」
首筋に線のように血を滲ませながら、聖女がニヤリとした笑みを浮かべる。ムカつくことに、聖女を黙らせるようなことばが、俺の口から出てくることはなく──いや。
いまにして思えばあれは、聖女による魅了魔法の一種だったんじゃないのか?
それから聖女は、そのペラペラとよく回る口で「この世界には、エンタメってもんがなさすぎるんだよ」
と、かつて所属していた世界の文化を、それこそ際限なく説明しはじめた。呆れた俺は剣を引き、聖女の話を聞いてやり、そして──。
「ねぇ、陛下。あなたのご趣味は、なんですか?」
侵略は趣味ではないと否定しながらも、大陸を征服し尽くしてから、数年後のある日。
聖女が俺に、そんな質問を投げかけた。
「知っているくせに、何故わざわざ問う」
「陛下の口から言わせたかったんですけど、まぁいいです。陛下の趣味……剣や格闘、弓からはじまって、チェスも教えたらすぐに極めちゃうし。でも来年のそれぞれの闘技大会は、陛下に負けた者が強くなって帰ってくるかもしれませんからね、楽しみですねー」
「その点には同意する。殺さないほうが楽しめるとはな」
「フフッ。あとそれと、旅行! ワタクシの趣味を陛下とご一緒出来るなんて、本当に贅沢──あ、次の旅行先はですね、ここ、すっごく美味しい名産の果物があるんですって! でも最近、窃盗被害が増えてるらしくって……そんなアホウは、旅行のついでに、とっ捕まえちゃいましょう。で、ついでのついでに、治安維持隊の見直しも……」
俺が征服したこの世界は、どうやら──おまえの趣味によって、成り立っているようだ。
1/16/2026, 8:42:32 AM