【どこまでも続く青い空】
「何でこんなに空が青いんだよ…」
どこまでも続く青い空を見上げながら、俺は
思わず呟いた。頭の中は、今度提出する卒論のことで一杯だった。担当の教授からことごとくダメ出しをされ、何をどう書けばいいのか迷走していた。青い空を目の前にしても、まったく気持ちは晴れなかった。
「うわ〜、絵に描いたような逆恨みですねぇ〜、先輩」
ボソッと小声で言ったはずの一言を、たまたま隣にいた後輩のヒグチが耳にしていた。奴は、俺が教授にダメ出しされていたときにもたまたま同じ部屋にいて、事情をよく知っている。
「でも実際、教授のご指摘どおりに修正する方がより良い卒論になるんじゃないんですか?」
「うるさいな。良くなるかどうかは別として、つまらなくなるんだよ。卒論も俺も」
そう言いながら、俺は教授がダメ出し中に言ったある一言を思い出していた。
「う〜ん、君の文章は何というか…デッサン力のない抽象画のようですねぇ」
絶妙な言い回しだった。教授が提示した締切に何とか間に合わせた俺の論文は、資料を深く読み込むことなく感覚的な言い回しで体裁を整え、文字数だけを稼いだことがバレバレだった。だからといって、元々底の浅い文章の内容をより具体化したからといって、現在より良い論文になるとも思えなかった。
「僕は先輩の文章って好きですけどね。読んでると心が和むというか、感情の浮き沈みを穏やかにしてくれるというか…けど、それって卒論においては合ってないんでしょうね」
どうやら、ヒグチはヒグチなりに俺の文章を認めてくれていたらしい。ただ、今の言葉はあまりフォローになってはいないのだが。
俺は今、あの「デッサン力のない抽象画」にこれからどう手を加え、教授にその良さを伝えようかと頭を悩ませている。今だけは、あのどこまでも続く青い空がどうしても気に食わない。
10/24/2023, 9:57:45 AM