「おい、ススキ!」
僕の名前は鈴木。
でも、みんなからは『ススキ』って呼ばれてる。
茶色くてなんかふわふわしてるススキみたいにぱっとしないから、らしい。きっと、小柄で暗いから、そうやっていじられるんだろうな。
「昨日、裏山にススキがいっぱい成ってたぞ」
「あれだけあると邪魔だな〜。邪魔邪魔」
「全部刈っちまおうか? なぁ、ススキ」
そうやって、僕をいつもからかってくる子達が、にやにやしながら肩に腕を置いてくる。
僕は「そうだね……」としか返せなかった。
「こら! まーた鈴木に絡んでるのか!」
そこへ割り込んできた子が一人。
僕のことを唯一ちゃんと呼んでくれる子だ。
「月野さん!」
「ほら! 邪魔なのはあんた達だよ。行った行った!」
月野さんはその子達を蹴散らすと、僕の正面に立った。
「昨日、裏山でたくさんのススキ見つけて、なんか思わず取ってきちゃった。鈴木にあげる」
笑いながらススキの束を僕に渡してくる。
僕は少し悲しい気持ちになって、それを受け取らず、下を向く。
「……月野さんも、僕のこと、ススキみたいにぱっとしないと思ってるの?」
「え?」
しまった。
変なことを聞いてしまった。
みんな当たり前のように思ってることを。わかってるのに。僕なんて、そんな人間なのに。
「何言ってんの? ススキ見たら秋だなーって思うくらいにはぱっとしなくなくない? ん? ぱっとする? じゃん?」
思わず顔を上げる。
月野さんは心の底から不思議そうな顔をしていた。
「そういえば、ススキって名前の由来調べてみたんだけど、すくすく育つ木ってところから来てるらしいよ。鈴木もススキって呼ばれてるんなら、そのうちあたしを超えるくらい大きくなっちゃうのかなー」
月野さんがそう言う。そう言ってくれる。
「……うん。大きくなるよ」
「えー? ちょっと寂しいなー」
大きくなりたい。君を超えるくらいに。
そして、いつか、守られるんじゃなく、君を守りたい。
差し出されたススキをようやく受け取り笑うと、月野さんもつられて笑った。
「ありがとう」
昔、裏山の前を通った時に見た、あのキレイな夜のように。優しく月に寄り添うススキでいたい。
ずっと君の隣にいたい。
『ススキ』
11/10/2023, 10:44:34 PM