この道の先に(人類の行方)
究極の選択! 結婚するならどっち!?
①貴方に対する愛はないがそれ以外全てある人
②貴方に対する愛はあるがそれ以外全てない人
さあ諸君、選び給え!
「………イマドキ攻めた番組やってんね。視聴者から苦情きたりしないのかな」
夕飯後の時間帯、まあまあ視聴率だって気になるんじゃなかろうか。
デザートの林檎の酸味に、今年の果物は雨が多かったせいかイマイチだと残念に思う。
少し酸っぱいよ、と念を押しつつ隣の彼にも同じ物を勧めた。
「愛だけじゃ食べていけない、って母親世代は口癖のように言ってたけどね。昨今の共働き時代、まあもうその考え方が古いよな」
―――無駄に煌びやかな番組の演出を一瞥して、彼は林檎を一口齧るとフォークを置いた。
プロデューサーはバブル期で止まってる人間なのだろうか。こんなの後からお咎めがありそうで何となく不憫になる。
「それもそうだけど、結婚自体今の子には響かないでしょ。愛があろうとお金があろうと、しない子はしない。周りも特に何も言わないし」
「それでいいかどうかは別問題だけどな。少子化待ったなし、現実的に結婚しないで子供産むのはリスクが高いし。結婚は自由だけど生まれた子供まで親の自由を押し付けられない」
………うん。理屈はそうだけど、根本的にもうそんなレベルな話ではなくなっている。
だって実際に、
「お母さん、行ってくるね」
「ああ、うん。気をつけて」
年頃の娘が、お洒落をして浮足立ちながら家を後にする。
今流行りのあれに、うちの娘も例外なく夢中だ。
「………こんな時間からバイトか?」
いい顔をしない彼に、わたしは残りの林檎を口にした。
「彼氏と推し活だって」
「彼氏? ………ああ」
一瞬眉が動いたが、彼は黙って画面に目を移した。
―――その番組の究極の選択、とやらはもう既に終わっている。結局結論はわからず仕舞いだった。
「………そもそも“これ”の尋常じゃない普及率が一番の原因なのよ」
外見のカスタマイズは自由自在!
夜道も安心!
性的トラブルもありません!
―――画面から流れる、大々的なCMが小気味よい音楽と共に流れていく。
………本人が望むのならそれでいい、というスタンスが招いた結果がこれだ。
もう今更何をどうしたってどうにもできない域にまで達してしまっている。
「せめて人間で、とかも咎められそうで嫌だわ」
わたしはもう誰も手をつけようとしなくなった余った林檎を、躊躇うことなくいつもの袋に廃棄した。
END.
7/4/2024, 3:54:41 AM