白玖

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[理想のあなた]

貴方なんか、嫌いだった。
第一印象は今まで出逢った人の誰よりも最悪で、話す度に衝突して。ムカつくーって、悔しいって思ったことだって数えられないほどに沢山あって。絶対に好きになれないと思ってた人だった。顔だって好みじゃないし、性格なんて水と油みたいに全然合わなくて。

でも、私は今貴方の隣で笑ってる。

同期で切磋琢磨して対立して、時には協力して、貴方の優しさに触れて、貴方の心に触れた私が貴方を好きにならないはずがないでしょう。
貴方を知って理想なんていとも簡単に変わるものなんだって気付いた。お金持ちが良い、とか。イケメンな方が良い、とか。高学歴じゃなきゃ嫌だ、とか。そんなものどうだって良くて、ただ『貴方』に恋をして、貴方を愛した。

「皆のところに話に行かなくて良いの?」
「ん」
「なんで?」
「一生に一度のウエディングドレス姿をまだ目に焼き付け足りないから」
「なぁにそれ」
クスクスと笑うと貴方もつられて笑う。窓から見える空は雲一つない晴天。私達の新たな門出を祝福してくれるように太陽の光が降り注ぎステンドガラスがキラキラと輝く。
「晴れてよかったね」
「そうだな」
貴方が窓の方を向いて頷く。横顔がいつにも増して嬉しそうなのはきっと私の気の所為じゃないよね。どうしよう、こんなに貴方が愛しい。結婚式だから余計にそう感じてしまっているだけ?それとも……。

「……っ」
「っ、何。いきなりキスとか、びっくりするんだけど」
「驚いた? なら成功〜」
妙に気恥ずかしくなって、よく分からないテンションになっちゃった。その目やめて。自分でもバレバレな照れ隠しになってるの気付いてるんだからニヤニヤしないで。嬉しそうに笑わないで。

『ね〜!』
タイミングを計ったみたいに友達が手を振ってこっちにやってくる。
「あっ……」
「俺も少しあいつらのとこ行ってくるわ」
「……うん」
席を立ち、友人達の所へ向かう貴方と入れ替えに友達がやって来る。話しながら彼の方をチラチラと覗き見る。うなじを掻きながら話し込んでいる。
(何話してるんだろ)
『も〜、ほんっとうに旦那のこと好きだよね』
「えっ!?」
『そうそう! 最初は「あんな奴絶対に好きにならない〜」とか言ってたのに』
「そ、それは彼のこと知らなかったからで……!」
『はいはい』

こんなにも愛しく想える人に出逢えた奇跡に感謝しよう。
どうかこの愛が生涯枯れることのありませんように。

5/20/2023, 11:10:45 AM